本事業は、2019年8月にウランバートル市チンゲルテイ区長の要請に基づき、市川市歯科医師会の協力で当機構の千葉光行理事長他4名から成る調査団を派遣したことがきっかけだ。調査結果を踏まえてJICA(国際協力機構)の「草の根技術協力事業」に応募し、2020年11月に採択された。
日本研修報告
背景には学校児童のむし歯罹患率がある。チンゲルテイ地区の公立学校全児童(2万4千945人)を対象とした検診報告(2018年4月)によると、歯科治療受診率は17%、虫歯治療指数(抜歯や詰込み等治療をした歯の数)は2.34と低い一方、むし歯が悪化した児童の比率は83%と非常に高い数値を示している。
主な原因として挙げられるのが「都市化とともに甘みの強い嗜好品や柔らかい食品の摂取が増え、食事時間が不規則になる等、食生活が変化していること」「歯磨きの習慣や歯磨きの必要性に対する知識が欠けていること」「歯科治療は時間と費用がかかる特別医療のため、低所得層の家庭は治療を受けることが困難なこと」だ。
むし歯は重篤化すると体全体に影響を及ぼし発育に悪影響を与える。モンゴル政府は2019年から「健康な歯・健康な子ども」を掲げて対策を行っているが、効果は上がっていない。大きな理由として考えられるのが学校歯科検診の不備だ。同国での検診は、各学校で歯科の専門知識を持たない学校医が独自に検診カードを作成し結果を児童に渡すのみで、学校は重篤なむし歯のある児童に対してフォローをしていない。地区の公的機関である中央保健センターには歯科医師が駐在しているが、学校歯科検診には携わっていない。
そこで本プロジェクトでは、地区保健センターの歯科医師が学校歯科検診に携わり、検診データを集計・分析し、治療や経過観察が必要な児童に対するフォローを行う仕組みづくりを目標に設定した。また、学校ごとに地域関係者(行政代表、学校関係者、歯科医師、保護者代表等)をメンバーとする「学校歯科保健委員会」を立ち上げ、「歯と口腔ケア」に対する理解と普及を促進することも掲げた。
第一歩となったのが、日本での研修(セミナーと学校歯科検診の視察)だ。日本の学校保健で行う「歯と口腔ケア」の知見を共有するために、2022年6月に同地区保健センターの歯科医やモデル校の学校長、学校保健行政官、国立医科学大学歯学部教授等11名の研修員を招聘した。
セミナーでは、最初に千葉理事長が本プロジェクトの目標と取組み方法について説明。続いて市川市歯科医師会の藤野紫重氏、翠川鎭生氏、長谷川勝氏がそれぞれ「対象地域子どもたちのむし歯の現状と課題」「モンゴルの子どもたちのむし歯を無くすために」「日本の学校歯科検診の仕組みと手順」をテーマに講演した。
学校歯科検診の視察研修では、市川市立新浜小学校と第七中学校を訪問。新浜小学校では、同校の学校歯科医でもある長谷川氏が歯科検診を行う中、研修員が方法と流れを視察した。続く第七中学校では、歯科検診の視察に続いて研修員による模擬体験を実施。長谷川氏の指導のもと、保健センターの歯科医師が行政官をモデルに歯、口腔内、歯列や顎関節、歯垢の付着、歯肉等の検査を行った。
今回の研修で何を学んだのか。保健センター歯科医師のソロンゴ・ヒシグジャルガル氏は「小児の予防歯科検診をいかに迅速に実施し、検査結果をいかに効率よく記録・活用するかについて幅広い知識を得ることができた」とし、「今後、日本での口腔衛生に関する仕組みの良いところをモンゴルに導入し、実現させるために全面的に協力していきたい」と抱負を述べた。
政策については、区長室長のバヤンバートル・プレブジャブ氏が「まずは二つのモデル校で歯科検診を継続的に行い、区民の口腔衛生教育を早い段階から提供するノウハウを構築して虫歯や歯の病気予防につなげる政策を行う」との見解を示した。
日本での研修に続き、同年9月にはモデル校での歯科検診に併せて日本から専門家5名を派遣して指導を行い、学校歯科検診のしくみづくりを推進する予定だ。合わせて検診に必要な口腔検診ミラー、煮沸消毒器、LED照明灯等の器具を供与し、活用方法や適切な管理方法についてのガイダンスも行う。
事業名: JICA草の根技術協力事業
二つのモデル公立学校を対象にした学校歯科
検診の仕組みづくりプロジェクト
対象国: モンゴル国(ウランバートル市チンゲルテイ地区)
事業内容:学校歯科検診の適切な管理運営体制の確立
実施団体:認定NPO法人健康都市活動支援機構
実施期間:2022年5月~2025年4月(3年間)