西東京市は2001年に2市による都市型合併で誕生した。都心部へのアクセスと郊外の居心地の良さを享受できるまちで、人口約20万5千人を擁する。コロナ禍にあっても健康都市のイベントであるヘルシーパートナーズ事業を継続。本年度で3年目を迎えた。本稿では「健康」応援都市を舵取りする池澤隆史市長に対談いただいた。(聞き手 千葉光行)
西東京市 池澤隆史市長
ウォーキングと歩育フェスタ
千葉
本年度のヘルシーパートナーズ事業も大勢の市民に参加いただき盛況でしたね。
池澤
合計千人以上の参加者をお迎えする中、感染症対策に万全を期しつつ事業を開催しました。当市が目指す「健康」応援都市の基盤は市民の健康づくりです。ウイズコロナで日常の行動範囲に変化が生じる中、健康増進の機会を提供して、健康を意識した生活様式の継続を図る必要があります。十分趣旨を理解いただいているからこそ、大勢の方々がご協力くださったのだと思います。
千葉
イベントは「『あるこ(※)』で街なかウォーキング」と「歩育フェスタ」の二本立てでした。どのような内容だったのでしょうか?
※「あるこ」: 西東京市在住・在勤者が無料登録できる西東京市オリジナルの健康ポイントアプリ。歩数がいつでも確認できるほか、体重、体温、睡眠、健康診断の受診等を記録できる。
池澤
「『あるこ』で街なかウォーキング」では、当市の魅力に触れながらウォーキングを楽しむ二つのコースを設定しました。一つは「いこいの森公園」と「多摩六都科学館」を結ぶ約3.3㎞のコースです。スタート地点では、「しゃきしゃき体操推進リーダー」による準備体操を行い、東京大学大学院農学生命科学研究科附属田無演習林と協働して、さまざまな活動を行う団体のメンバーの先導で「東京大学田無演習林」や「西原自然公園」を経由してゴールを目指しました。
もう一つは西武新宿線田無駅と多摩六都科学館を結ぶ約2.3㎞のコースです。こちらは各自で自由に経路を設定いただきました。当市は都心に隣接しているにも関わらず緑が多く自然に恵まれています。農業も盛んで、新鮮な農産物の直売所も点在している。そうした魅力を歩きながら満喫いただけたのではないでしょうか。
ゴールの多摩六都科学館では「歩育フェスタ」を開催しました。歩育とは「歩くことで社会の環境や自然と触れ合い、体験を通して子どもの心身を育む教育」です。日本ウオーキング協会が中心となり、全国で普及活動を展開しています。コロナ禍において子どもたちの日々の歩数が6~7千歩も減ったとの調査結果があると同時に、体力低下や偏平足といった長期的な影響も出ています。心身の健康づくりを取り戻さねばなりません。
歩育には、「運動能力や体力の向上」とともに「五感の刺激による脳の成長」や「血行促進による心の安らぎ」といった効果があるとされています。そこで同協会所属の歩育コーチをお招きし、歩き方チェックや靴の選び方講座をはじめ、身体を使って遊ぶ鍛えるコーナー等を設けました。参加者からは「歩き方、姿勢、靴の選び方、履き方全てにおいて勉強になった。ぜひ機会があればまた参加したい」「当たり前のようにおさがりの靴を履かせていたが、これを機会に足に合う靴を新調したい」といった感想が寄せられました。
高齢者向けeスポーツ
千葉
西東京市は2007年から東京大学高齢社会総合研究機構の協力のもとフレイルの予防事業に取組む等、高齢者の健康寿命延伸に力を入れています。ウイズコロナ社会にあって「人と人とのつながり」の大切さが再認識される中、ほかにどのような事業を行っているのでしょうか?
池澤
新たなフレイル予防の取組みとして、2022年度から「eスポーツ講座」を開設しました。「太鼓の達人」やレーシングといった人気ゲームを地域で楽しむ内容です。仲間にルールや機器操作を教えたり多世代交流の担い手となる「健康デジタル指導士」の養成も始めました。
きっかけは、地域共生社会の実現を目的に開催した「2021 ともに活きる!まちづくりフェス」です。「eスポーツコーナー」を設けたところ、「初めてだったが意外と簡単で、音楽に合わせて楽しくできる」「何年かぶりに興奮して楽しかった!」「またやりたい。みんなでやりたい!」と大盛況でした。すでに取り入れている自治会に聞くと「楽しみながら交流している」と高評価です。早速少額ながら予算を計上し、本年度に14回の開催を予定しています。
千葉
運動に偏ると長続きしない傾向があります。遊びの要素を取り入れたのがミソですね。
学校応援団
千葉
まちづくりでは「学校を核とした地域づくり」を進めていますね。2021年の市長就任時に掲げた施策の柱が「子どもが『ど真ん中』のまちづくり」でした。その後の展開はいかがでしょうか?
池澤
私は「全ての子どもの命を大切にし、健やかに育つこと」を施策選択の際の重要な基準にしています。そのためには、地域で子どもたちを支えていくことが重要で、学校区を単位としています。
課題は、市内公共施設の約6割を占める学校施設の多くが、一斉に更新時期を迎えていることです。老朽化が進む学校施設を優先しなければならないのですが、このことをまちづくりを進める上での大きなチャンスと捉えています。単なる建替えではなく、子どもたちや地域の人々が元気になるような仕組みを導入できるためです。
千葉
具体的にはどのような取組みをされているのでしょうか?
池澤
まずは「学校応援団」を発足しました。従来、地域と学校との関わりは保護者が中心でした。しかし、子どもたちが卒業すると関係性は希薄にならざるを得ない。その点、「学校応援団」のメンバーは保護者である必要はありません。なぜなら、学校の環境づくりに貢献すること自体が目的だからです。ある学校では「花壇の整備」や「正門のペンキ塗り替え」のテーマで学校が協力を要請し、一定期間ボランティアで活動いただいています。人間関係も良好で顔の見える関係ができているので、災害時での共助が進みやすくなると期待しています。
千葉
好きなテーマや得意なテーマであれば、自発的に協力いただけますね。コミュニティづくりの原点を捉えた素晴らしい仕組みだと思います。
ところで、ウイズコロナ時代の健康増進に向け、ご自身は何を実践されているのでしょうか?
池澤
「池澤流五つの基本」を実践しています。一つ目は食事をしっかりとること。栄養バランスにも細心の注意を払っています。二つ目は毎日7時間の睡眠です。起床は5時と決めていますので、9時半頃には眠くなり、10時には眠るようにしています。コロナ禍で夜の付き合いがなくなったことが、睡眠時間の確保につながっています。三つ目が社会参加です。できるだけ外に出ていろいろな人とお会いしています。もちろんフレイル予防にもなります。四つ目が運動です。毎日朝晩、30分の犬の散歩は欠かしません。五つ目が余暇で、気分転換のために散策を楽しんでいます。
千葉
まさに「健康の達人」ですね。市長の姿勢がそのまま元気な市政運営に反映されているのだと思います。本日はありがとうございました。