本稿では、AIの発展や現状、展望について、医療・福祉の分野で特集する。
巻頭インタビューでは、地域ケアの進化を目指し、草創期からAIやロボット開発に携わってきた株式会社ノバケアの岡本茂雄氏にオピニオンリーダーとして登場いただいた。続いて若きリーダーである株式会社ウェルモの鹿野佑介氏に、地域ケアを支えるビジネスモデルを取材した。さらに医療現場では、名古屋大学医学部付属病院メディカルITセンターの大山慎太郎氏に、企業との実証実験について紹介いただいた。
AI(Artificial Intelligence:人工知能)の導入が国内外の社会や産業のさまざまな領域で進んでいる。
AIは1950年代後半から始まった研究分野で、2000年代からは第3次ブームを迎え、かつてない盛り上がりを見せている。背景には、ビッグデータからAI自身が知識を獲得する「機械学習」が実用化されたことがある。とはいえ、「どのようなデータを学習させるのか」「どのような学習方法を用いるのか」「どのようなアルゴリズム(※1)を使うのか」は人が関与し設計しなければならない。元となるのがプログラミング(※2)で、AIはプログラミングによるソースコードの組み合わせによって動作する。
AIは大きく「特化型AI」と「汎用型AI」に分類される。前者は限定された領域の課題に特化して自動的に学習、処理を行うもので、現在実用化されているのはほとんどがこのタイプだ。わかりやすい例としては、自動運転やお掃除ロボット、囲碁のAIなどがある。アップル社の音声応答アプリケーション「Siri」が馴染み深いだろう。スマートフォンに搭載され、話しかけると、AIが人間の音声を認識し、質問への回答やWebサービスの利用をアシストする。ネットショップでは、アマゾンがカスタマーの購買習慣を予測して製品情報を提供しているが、これは高度なアルゴリズムを備えたAIによるものだ。
一方の後者は特定のタスクなどに限定せず、人間同様、あるいは人間以上の汎用能力を持ち合わせるもの。SF映画の人型アンドロイドを思い浮かべるが、実用化には至っていない。
こうした中、人の関与を超える可能性をもたらしているのが、機械学習の一つの手法である「ディープラーニング」である。ディープラーニングは脳の神経回路を模倣した「ニューラルネットワーク」を多層に重ねることでデータの特徴をより深く学習させる仕組みであり、これにより音声の認識、画像の特定、予測など人間が行うような複雑なタスクが実行できるようになった。
果たしてデータさえ与えれば、機械が人の手を離れ自動でどんどん学習し、ついには人間を凌駕するようになるのだろうか?
松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科教授)は著書「人工知能は人間を超えるか」で、AIとは「データの中から特徴量(※3)を生成し、現象をモデル化することのできるコンピュータ」と定義し、「ディープラーニングでは、データをもとに人間が特徴量を設計するのではなく、コンピュータが自ら高次の特徴量を獲得し、それをもとに画像を分類できる。つまり、これまで人間が介在しなければならなかった領域に、ついに人工知能が一歩踏み込んだ」と述べている。
ただし松尾氏は「このことと、AIが自らの意思を持ったり、AIを設計し直したりすることとは、天と地ほど距離が離れている」と指摘する。人間とは「知能」+「生命」であり、AIが自らを複製できるような生命を持たない限り、そうした可能性は、現時点では夢物語だと言うのだ。「AIが得意とするのが大量のデータセットの処理、データ内のパターンや関連性の発見、明確な目標への最適化、予測であり、AIに創造性を求めても、それは人間の創造的プロセスを模倣したものに過ぎません。」
以上を踏まえ、松尾氏はAIに奪われることがない人間の仕事として、「大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務」と「人間に接するインターフェース」の大きく2つに分かれるだろうと予測する。そして「忘れてはならないのが人間とAIの協調」としながら「協調が進めば生産性が上がり、労働時間が短くなる。『生き方』や多様な価値観がますます重要視されるようになるだろう」と結んでいる。
本稿では、そうしたAIの発展や現状、展望について、医療・福祉の分野で特集する。
巻頭インタビューでは、地域ケアの進化を目指し、草創期からAIやロボット開発に携わってきた株式会社ノバケアの岡本茂雄氏にオピニオンリーダーとして登場いただいた。続いて若きリーダーである株式会社ウェルモの鹿野佑介氏に、地域ケアを支えるビジネスモデルを取材した。さらに医療現場では、名古屋大学医学部付属病院メディカルITセンターの大山慎太郎氏に、企業との実証実験について紹介いただいた。
※1 アルゴリズム
コンピューターにおける計算方法の手順。コンピューターはいくつもの選択肢を折り重ねることにより複雑なプログラムを構成しており、そうした「組合せの最適化」を意味する。
※2 プログラミング
AIのプログラミング言語には、文法がシンプルで機械学習に関するライブラリが充実しているPythonが用いられることが多い。
※3 特徴量
機械学習がパターンの抽出にするために参考にする数値化されたデータの特徴。人が指定する必要があり、この入力データの良し悪しがAIの質を左右する。