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トップインタビュー 池澤 隆史氏(東京都西東京市長)

2001年の合併から20年が経過し、人口20万6千人の都市に発展した西東京市。当時合併協議会の事務局員を務めたのが、今年2月に就任した池澤市長だ。選挙スローガンでもあった「子どもがど真ん中のまちづくり」に向け、現場で自ら陣頭指揮を執る。

まずは、東京五輪・パラリンピックの印象についてお聞かせください。

印象深いのは、オリンピックとパラリンピックの点火セレモニーです。当初予定されていた西東京市、三鷹市、府中市、調布市、世田谷区の公道での聖火リレーが中止となりましたが、それぞれ東京競馬場と都立砧公園で行われました。私は両方のセレモニーに参加し、第1ランナーのトーチに点火しました。無観客ではありましたが、「西東京市の共生社会への願いを灯すとともに、新しいパートナーシップを考える機会となることを願います」とご挨拶しました。

 

競技で感動したのは、パラリンピック最終日の女子マラソン(視覚障害T12)で金メダルを獲得した道下美里さんの笑顔です。2人のガイドランナーの力を借りて、パラリンピック記録でゴールしました。地元福岡では、10名のランナーで構成する「チーム道下」と練習を重ねたとのこと。「自分だけがメダリストではなく、ガイドランナーやチーム全員がメダリストです」とのコメントは五輪精神そのものです。

市長が実践しているスポーツは何ですか?

私自身、健康維持のために継続しているのは、マラソンです。ここ2年はコロナ禍で中止になっていますが、例年は本市主催のリレーマラソンに参加しています。場所は都立小金井公園内で、周回コースの合計42.195㎞を1チーム4~10人が襷で繋ぎます。参加者は小学生以上で、職場や学校、地域や家族など様々です。障害のあるランナーは伴走者をつけることができます。私は地元の中学校OBチームを結成しています。年齢は20~60歳代と幅広く、最高記録は3時間11分でした。

 

聖火セレモニー
聖火セレモニー
リレーマラソンの集合写真
リレーマラソンの集合写真

組織とリーダーシップについて、スポーツとの共通点はありますか?

私は旧保谷市役所に入庁後、福祉や教育行政の現場に長年携わりました。その経験から、何かあれば現場に赴き、職員と一緒に動く「フィールドマネージャー」の役割をリーダーの基本姿勢にしています。スポーツに例えると、監督兼選手といったところでしょうか。市長自らが率先することで職員に市政と市民サービスへの理解が深まり、より優れたパフォーマンスを発揮してくれると思っています。

 

今年6月には、コロナの影響を受けている学生を支援するため、職員と共に食料品や生理用品等を無償配布しました。また、当市独自の学生応援特別給付金についても、チラシを配布し、制度を周知しました。

 

 

今年10月の週末には、「あるこで街なかウォーキング」と「街づくりフェス」に参加しました。前者は、健康を意識した生活様式を普及するためのイベントです。市オリジナルの健康ポイントアプリを使って市内のチェックポイントを歩いた後、ウォーキング講座に参加しました。後者は、「共生社会とは何か」「実現するためにはどうしたらよいのか」を考えるイベントです。中学生とサッカーやテニスを楽しみました。いろいろな行事の中でも、こうした市民参加型の事業に大きなやりがいを感じています。

2001年に保谷市と田無市が合併し、西東京市となりました。その頃は企画部に所属していたのですね。

企画の仕事は幅広く、庁内調整や対外折衝もありますが、当時の市長に「合併だけに専念してほしい」と言われ、わずか1年半という期限でやり遂げました。同じ規模の自治体同士の合併だったので、両市に合併協議会を置かねばなりません。運営や調整、人間関係が特に難しかったです。それでも邁進できたのは、両市長の確固たる決意のもと、全職員が同じ方向を向いていたからです。強力なリーダーシップのおかげです。

ニューノーマル時代を迎えた組織の課題についてお聞かせください。

昨年から庁内の打合せにおいてリモート方式を採用し、現在、実施回数が増えています。田無庁舎と保谷庁舎間の距離が直線で約2.5㎞あるのですが、距離と時間を気にすることなく、どこからでも参加できるのがメリットです。単なる説明目的であればリモートが便利です。一方で、議論にはなじみません。ある程度定着すると思われますが、上手に使い分けることが大事です。

 

 

職員のモチベーションを向上するには、上司が明確な目標を指示すると同時に全員のベクトルを集中させることが肝心です。評価は個人ではなく組織に下さねばなりません。その代わり、もし失敗したとしても個人の責任にせず、組織でフォローしなければならない。職員研修では、ミスをしたら必ず同僚や上司に相談するよう話しています。

池澤市長(向かって右)と千葉理事長
池澤市長(向かって右)と千葉理事長

市長は2021年2月の選挙で初当選されました。重点施策についてお聞かせください。

これまでの政策を引き継ぎ発展させるために、「健康で元気なまち」と「子どもにやさしいまち」をつくることを重視しています。本市は、2011年に健康都市宣言を行い、2014年には健康都市連合に加盟し、健康の維持・向上を応援する「健康」応援都市としてのまちづくりを進めてきました。主なものは、フレイル予防事業、「西東京しゃきしゃき体操」やウォーキングの普及等です。

 

一方で2018年に「西東京市子ども条例」を制定し、子どもの命と健やかな成長を育むことを市の役割に定めています。それは私たち大人世代の責任でもある。そこで私は「子どもがど真ん中」を柱とした市政を公約に掲げ、ハードとソフトの両面から推進しています。

 

市内公共施設の約6割を占める学校施設の多くが老朽化しているため、まずは小中学校それぞれ1校の新校舎を建設しました。生活環境も重要であることから、体育館の空調にも予算を計上しました。

 

2021年の4月からは、子どもたちの生きる力を育むことを目的とする文部科学省の「GIGAスクール構想」のもと、小中学校の全児童・生徒1万4千人にタブレットPCを配り、ICT教育の環境を整えています。小学校を訪問して感心するのは子どもたちの適応力です。2年生になると自由に使いこなしている。先日リモート授業に参加したところ、チャット機能でどんどん質問していました。ある小学4年生の児童によると「タブレットがあれば教科書やノートや鉛筆はいりません」とのこと。そこで気づいたのが机の狭さです。教科書とノートとタブレットを同時に置くスペースがないのです。

中原小学校外観
中原小学校外観

「子どもがど真ん中」では、どのようなまちづくりを進めるのでしょうか?

施設更新を好機と捉え、学校に地域の核となる機能を持たせることを考えています。学校を含む公共施設のあり方をみんなで考え、幅広い世代から多くの意見をいただき、未来志向の地域教育環境を創出する予定です。

 

特に学校を重要な拠点になるものとして、「学校応援団」というしくみを考えています。多くの子育て世帯にとっては、子どもの卒業と同時に学校や関係者との縁が薄くなってしまいます。そうならないように、イベントや役割を通じて地域の人々との繋がりを継続するしくみです。夏休み中の飼育動物の世話とか、学校施設のペンキ塗りとか、学校に関わることなら何でも構いません。まずは一緒に活動し、その後も何かあればお願いすることで、学校を核としたコミュニティが生まれます。顔と顔が分かる関係が生まれ、いざ災害時には、助け合える地域になると考えています。現在、小中学校それぞれ1校をモデルに進めており、うまくいけば他校に広めていく予定です。意外にも30~50代の働き盛りを中心に多世代にわたる参加希望者となっています。

「支え合い」が地域力を向上させるということですね。それが健康都市と「子どもがど真ん中」のまちづくりのエッセンスだと理解しました。


池澤 隆史(いけざわ たかし)氏

東京都西東京市長

1982年 同志社大学法学部卒業 旧保谷市役所入庁

2001年 西東京市企画部主幹

2004年 西東京市保健福祉部高齢福祉課長

2006年 西東京市保健福祉部高齢者支援課長

2007年 西東京市企画部参与兼財政課長

2011年 西東京市教育部特命担当部長

2012年 西東京市教育部長

2013年~2020年 西東京市副市長

2021年 西東京市長就任




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