4期目の市政を担う櫻井市長は、信念と確かな実行力をもつリーダーだ。過去12年間で市の借金56億円の削減、企業の新規立地13社、亀山駅前地区再開発の推進、行政情報の透明化など数々の公約を着実に実現している。
まずは東京五輪・パラリンピックの印象をお聞かせください。
まずは東京五輪・パラリンピックの印象をお聞かせください。
コロナ禍の制約の中、日本人選手の活躍はもちろんのこと、大会の理念である「多様性と調和」を体現した各国アスリートの精神と努力に感動しました。紆余曲折ありましたが、半世紀ぶりの日本での開催は意義深いものでした。
学生時代は球技に打込んだため、ソフトボールと野球のW金メダルは「あっぱれ」でした。特にソフトボールでは、ベテランの上野投手と若手の後藤投手の継投と攻守のバランスが見事でした。宇津木監督のもと、新旧世代が「ワンチーム」になっていましたね。
パラリンピックの開会式にも釘付けになりました。会場を空港「パラ・エアポート」に見立てた中、先天性の上肢下肢障害を持たれた和合由依さん(13歳)が片翼の小さな飛行機役で登場したシーンです。困難を乗り越えるメッセージを笑顔で演じる姿に深く感動しました。世界に向けた共生社会へのメッセージを訴求できたのではないでしょうか。
チームスポーツと行政の共通点は?
チームワークとマネジメントです。行政組織のチームワークとは、職員一人ひとりの意欲と能力を高め、目標に向かって組織内で連携することです。一方のマネジメントは、異なる分野の専門性ある行政職員の可能性を引き出しその総和により、市民の皆さんに生活の豊かさと幸福を実感していただく取り組みです。
組織を考える時に今も参考としているのが、オーストリア出身の経営思想家、ピーター・ドラッカー教授(1909~2005年)です。「人を幸福にする」根本思想のもと、マネジメントを「組織に成果をあげさせるための機能」と定義し、要素に目標設定、組織づくり、コミュニケーション、評価測定、人材育成の5つを位置付けました。
私は大学で産業社会学を専攻しており、卒業論文のテーマが「組織開発と管理者教育」でした。教授は多数の著書で世界のビジネスリーダーに影響を与えていますが、私もその一人です。
そのドラッカー教授が「理想の組織」としたのがオーケストラです。そこでは異なる個性ある音の弦楽器や管楽器、打楽器の演奏者が指揮者のもと、素晴らしく調和した音楽を奏でます。教授は「指揮者の力、ビジョン、リーダーシップによって、単に音を出すにすぎない楽器が生きた総体としての音楽を生み出す」として、オーケストラの在り方から組織構成員の自発的な能力を引き出す経営の在り方を論じています。
市長のリーダーシップを示すものにマニフェストがあります。2009年に立候補した時には「新生・亀山モデル」を掲げました。どのような市政を描いたのでしょうか?
「サスティナビリティ(持続可能性)」を基本理念とし、次世代に引き継ぐまちづくりの在り方を示しました。環境、健康、文化の政策を重視する中、2010年にはWHO(世界保健機関)が提唱する健康都市の概念に賛同し「健康都市連合」に加盟しました。これもマニフェストに掲げた一つですが、以来、政策の柱として「ひとの健康」と「まちの健康」の深化に挑戦しています。
また、それまで市として積極的でなかった情報公開・情報共有に光を当て、開かれた市政を目指しました。三重県には14の市がありますが、2008年の市民オンブズマン情報公開ランキングで当市は12位でした。情報公開制度があるにもかかわらず、コピー1枚に100円も請求していたのです。
そこで市長就任と同時に市長交際費などの全面公開とともに、議会中継の開始等に踏み切りました。結果、2010年には同ランキングで1位を獲得しています。さらなる「市役所の見える化」のため、6年前から職員にデザイナーを起用してホームページや印刷物で予算をはじめとする市政情報をわかりやすく発信しています。特に「通信簿」や「家計簿」と題して公開している決算書は好評です。
櫻井市政のスタートから12年が経過し、次なるステージへ「NEXT 亀山 緑の八策」を掲げました。その中に「健康都市大学の開設」があります。
ご存知の通り、19年前にシャープ株式会社が最先端の液晶TV製造拠点を置いたことで「世界の亀山」として脚光を浴びました。その後の地域社会への影響は経済や雇用だけではなくCSR活動にも及びました。亀山工場や関連企業、市民による市有林の環境保全がその一環です。生涯学習の場である亀山市民大学では環境講座を提供し、小中学校への出前講座も行いました。
そうした活動が一定の役割を終えたところで打ち出したのが「健康都市大学」です。将来都市像を「緑の健都」と位置づけ、SDGsや健康都市の達成に向けて様々な政策を立案・推進します。まずは現在の健康推進プログラムを体系的・有機的に整理して、その充実を目指します。
健康都市の活動では「健都さぷりプロジェクト」の新展開を打ち出していますね。
現在進行中の「健康づくり+10」、「健康マイレージ」、「亀山QOL支援事業」等の効果を検証した上で、食の「不老フード運動」や「免疫力アップ大作戦」、「糖尿病の重症化抑制プログラム」等を新たに加えて新展開を図ります。健康都市のエビデンスとしての活用も期待できます。健康都市連合日本支部では、健康都市の指標づくりに着手していますので、健康決定要因モデルのデータに活用できればと願っています。
地域コミュニティの強化も健康都市の大事なアプローチの一つです。当市では、「亀山モデル」とも言える「地域まちづくり協議会」が22地区に設立され、防災・防犯活動、環境美化活動、公民館活動、地域福祉活動等を行っています。地域社会を構成する多様な主体によるコミュニティの推進組織で、自治会長、婦人会や子供会、老人会、PTA、消防団、民生児童委員、福祉委員がメンバーです。
市民一人ひとりが自分たちのまちに愛着と誇りを抱くことができれば、地域をよりよくすることのための自発的な取り組みが始まります。他人事でも評論家でもなく、我が事として多彩な社会参加を通じて絆を深めあい、自主的な取り組みが促進されるように、市は「地域予算制度」や「地域担い手研修」を設けて支援しています。
身近な部分では「ちょこボラ」を推進しています。「ちょこっと・ボランティア」の略称で、「近所のおばあちゃんが草取りに苦労している」といった困りごとに対し、支え合いの輪を広げる活動です。社会福祉協議会主催で20地区に養成講座を設けています。
マニフェストのキャッチフレーズ「すべては未来のために」は、子育て環境重視の表れですね。
かつて女子師範学校が置かれ「教育のまち」と称された当市だけに、市民や教育関係者の間では今もその精神が息づいています。まちの明るい未来には、子育て世帯を支える環境や子どもの生きる力を育む教育環境が不可欠です。
特に「亀山版ネウボラ※」では、「子育て世代包括支援センター」を核にかかりつけ医、保健師、学校などが連携し、妊娠・出産・育児から学童期・思春期までの切れ目のない相談や支援を行う仕組みづくりを行うことで、母子保健と生育サイクルを強化しています。
現在、市民の平均年齢は45.3歳、年少人口比率(15歳未満)がおよそ14%で、三重県では7年連続で1位になっています。様々な政策が、少子高齢化の影響を比較的小さく抑えることにつながっているのだと思います。
市長就任以来、公約を着実に推進し「住みよさと財政健全化の両立」を実現されてきました。ニューノーマルの時代、信念と実行力をもつリーダーが不可欠です。「NEXT亀山 緑の八策」で持続可能なさらなる健康まちづくりを推進されることを期待します。
櫻井 義之(さくらい よしゆき)氏
三重県亀山市長
1963年 三重県亀山市生まれ
1986年 関西大学社会学部卒業
1989年 経営コンサルティング会社退職
1991年 亀山市議会議員(1期)
1995年 三重県議会議員(4期連続)
2001年 リニア建設促進議員連盟・会長
2003年 三重県監査委員
2007年 三重県議会副議長
2009年 亀山市長就任
2013年 亀山市長再選(2期目)
2017年 亀山市長再選(3期目)
2019年 三重県市長会 会長
2020年 健康都市連合日本支部 副支部長
2021年 亀山市長就任再選(4期目)