健康都市連合日本支部は2021年度事業として、「持続可能な健康都市の展開のための指標の活用」に、WHO健康都市・ 都市政策研究協力センターと連携して取組んでいる。(図1)多面的に「健康都市度」を評価する指標を作成するとともに、指標を活用することで、健康都市に係る各都市の強みや弱みを明らかにし、施策の検討や魅力あるまちづくりの推進に寄与することをめざしている。本稿では、基礎となるデータ活用等の理解を深めるために開催されたオンラインセミナー第1回の概要を報告する。
データに基づく健康都市の展開を支える新たな健康都市指標の開発構想
東京医科歯科大学大学院教授 中村桂子
健康都市の指標づくりでの課題は、健康決定要因モデルに見られるように多面的に評価しなければならないことである。健康決定要因モデルには、地域の保健医療サービスはもちろんのこと、教育や雇用、所得、地域経済、住環境、都市環境、自然環境が密接に関わっている。(図2)したがって、健康都市の指標は保健医療に加え自治体が持つ様々なデータが基になる。そうした要因の関係を指数で数値化し解析して得られる基準が健康都市の指標となる。重要なのは、住民の健康水準には、保健医療だけではなく社会経済条件や住居環境等が関わることだ。寄与率を見ると、全体の5%ぐらいが保健医療であり、それに社会経済条件を加えると35%、更に居住環境条件を加えると55%を説明できることがわかる。(図3)
このように健康都市の要因が多様であることを踏まえながら、世界各国で30年以上にわたり健康都市づくりが行われてきた。そこでは住民の健康や福祉はもちろんのこと、身体的・精神的、そして社会的にも満たされたまちづくりが進められてきた。したがって、健康都市の指標づくりには人々の健康をどのように捉えるかも重要になる。それを客観的に数値化し、より優れた健康都市づくりを目指す取組みがこのプロジェクトなのである。
今回の指標づくりに先立ち、WHO健康都市・都市政策研究協力センターでは事前に指標のモデルを検討してきた。
まず、全国1916の市区町村の内、人口一万人以上百万人以下の1393市区町村を対象とし、政府統計の総合窓口(e -stat)から得られた2010年から2016年までのデータに基づき1769の因子を得た。
それらを14の領域(医療、教育、環境、就労、経済、行政、住環境、世帯、モビリティ、都市計画、保健福祉、所得、人口、コミュニティ)に分類し、領域ごとに主成分分析(※A)して代表因子を抽出した。さらにその因子を相関分析、単回帰分析、重回帰分析(※B)し、変数同士の関係性を数値にすることで指標化している。(図4)
今後は、日本支部加盟自治体の要望を取り入れながら、より実用的な健康都市度指標を作成していく。(図5)
※A 主成分分析:できるだけ情報を失うことなく全体の現象を少数の変数で集約する手法。
※B 相関分析: 二つの要素間の関係性を明らかにする手法。
単回帰分析:一つの目的変数をひとつの説明変数で予測する手法。
重回帰分析:予測したい目的変数を複数の変数で説明する手法。
中村 桂子(なかむら けいこ)氏
東京医科歯科大学大学院教授
WHO健康都市・都市政策研究協力センター所長
東京医科歯科大学医学部卒(医師)東大大学院修了(医学博士)。専門は国際保健、都市保健、健康都市計画。世界保健機関
(WHO)との共同研究を通じ健康都市連合(Alliance for Healthy Cities)の設立 に携わる。WHO 健康都市・都市政策研究協力センター所長、健康都市連合事務局長を兼務。国際学術会議都市保健ウェルビーイング科学委員会委員、日本学術会議連携会員、食品安全委員会専門委員、日本公衆衛生学会理事。