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「歩行改善プログラム」に参加する市町村が増加中。~先進のテクノロジーで新たな可能性が生まれる!~

 

会津若松市での「歩行力測定会」では、受付支援に分身ロボットが登場。感染症予防対策とダイバーシティ推進も兼ねた、新たな取り組みをレポートします

スマートシティAiCT
スマートシティAiCT
AiCTの交流棟
AiCTの交流棟

分身ロボットOriHimeが出迎え

 スマートシティ構想を掲げる会津若松市。そのICT(情報通信技術)戦略拠点の一つとして設けられたのが、名城鶴ヶ城の北に位置するスマートシティAiCT(アイクト)です。

 その交流棟で、3月29、30日の両日、同市と花王が連携する市民向け「歩行力測定会」が開かれました。参加者およそ100名を出迎えたのは、分身ロボットOriHimeです。ご当地で愛される白虎隊風の衣装をまとい、参加者の体調を聞き、検温と手指の消毒を促して、場内への誘導の役割をしっかり果たしていました。このOriHimeを分身として東京からリモート操作で業務を担ったのは、花王グループで働く障がい者の社員です。コロナ禍にあって、感染症予防対策のみならず、SDGsの「ともに生きる社会の実現」を目指す取り組みとしても注目を集めました。

※OriHimeとは、(株)オリィ研究所がコミュニケーションの壁を乗り越えるために開発した分身ロボットです。

参加する市町村・事業所が着実に増加

 「東日本大震災から10年が経ちましたが、福島県では様々な生活環境の変化に伴い、健康指標の悪化が大きな課題となっています」。こう切り出したのは、県の保健福祉部健康づくり推進課の本田あゆみ主幹です。「メタボリックシンドローム該当者の割合が、震災以降、とくに顕著になりました。外に出る機会や、運動する割合が減り、それが数値に表れています」(2017年度全国ワースト4位)。

 そこで県が2017年度から始めたのが、民間企業と連携する「市町村先駆的健康づくり実施支援事業」です。「運動をしましょう、と呼びかけるだけでは効果を期待できません。従来とは異なる取り組みの必要性を感じていました。当初、民間企業との連携にためらいもありましたが、民間が蓄積するノウハウやアイディアを生かして、なんとか健康指標の悪化を食い止めて、改善させたい、とスタートさせました」(本田氏)。

 市町村や事業所が、民間企業のノウハウを活用する実践的・意欲的な健康づくりを、県が財政的に支援し、これを「福島モデル」として幅広く県内に浸透させていく狙いです。

 この事業の特徴は、各市町村が、地元の健康課題に合致するプログラムを、複数の民間企業の提案の中から選べることです。

 2020年度はコロナ禍のためやや減少しましたが、大きな流れとしては、参加する市町村・事業所の数が増えています(下表参照)。

 では、なぜ本事業が県内の市町村・事業所に広がりつつあるのでしょうか。最も多く採用されている民間企業の一つ、花王が会津若松市と組んだ今回の「ウォーキングの“質”向上プログラム」から、その理由と魅力を探ってみましょう。

歩行が「見える化」され、「気づき」が改善と継続を促す

 生活習慣病やフレイルを予防・低減させ、健康寿命を延伸させる決め手の一つが、適正な運動習慣、とくに「歩行」です。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、運動不足やひきこもりの傾向がさらに強まっています。こうした中、本プログラムの「歩行力測定会」が11月と3月の2回、開かれました。健康の基礎となる歩行力を科学的に解析し、アドバイスを行うものです。同時にその間、ホコタッチ(専用の歩行計、右写真)を装着してもらい、歩数だけでなく、歩行速度等も計測し、若々しい歩行力が総合的に身につくよう促すものです。

 測定会では、換気や距離の確保など感染症予防対策をしっかり講じ、「ヘルスウォーク」(圧力シート)上を歩いて「歩行力」を計測します。すぐに出力されるデータと解析の結果表には、歩行のバランス年齢やスピード年齢が示されます。また、細かい分析項目を基に、膝や腰の痛み、転倒のリスクとの関連が指摘され、ワンポイントアドバイスも明示。参加者の疑問には、花王の担当者が本社からオンライン上で丁寧に答えます。こうして、これまで意識できなかった課題が「見える化」され、「気づき」が生まれるので、歩行の改善と継続につながります。

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【左から】 ① ヘルスウォーク上を歩く ② 結果表がすぐに出力される ③ 結果表には、歩行の年齢や綜合判定、ワンポイントアドバイスが表示される ④ 2回のデータをもとに、花王の担当者からオンラインでアドバイスを受ける

「市町村の実状に沿って選べるのも魅力」

 測定会後、このプログラムはどう評価されたのでしょうか。

 参加者からは、「ふだん気づかない点を教えられ、とてもためになった。測定会を他の人にも教えてあげたい」などと、概ね好評を博しました(下表参照)。

 会津若松市がこのプロジェクトを採用した理由について、市の健康福祉部副部長の新井田 昭一氏は次のように説明します。

 「本市も県と同じく、メタボリックシンドロームの率が高い傾向にあり、生活習慣病の重症化予防が重要な課題です。市民の皆様に健康を身近なところから意識していただくには、歩行力改善のプログラムがその一つとして非常に有効と考えました。歩数だけはなく、ふだん気がつかない速度や姿勢、膝、腰も含めて、ご自身の歩き方を再認識していただく。そういう意味ではたいへん注目すべき事業だと思い、連携させていただきました」。

 福島県の本田主幹は、次のようにとらえています。

 「この事業に取り組み始めて4年。健康づくりの大切さが市町村に浸透し、成果が少しずつ見えてきました。市町村がそれぞれの実状に合うプログラムを選べるのも、魅力だと思います」。

 同じく県の保健福祉部 健康づくり推進課の佐藤結 主事は、「県としても、プログラムを活用した市町村にご協力いただき『事例集』を作成するなどして、市町村が互いに参考にできるようにしたことで、いい刺激も生まれています」と手応えを感じています。こうして、民間提案のプログラムに取り組む市町村・事業所が増え、中でも花王のプログラムが多くの支持を得てきたようです。

 

参加者に感想を伺いました

◎男性 60代

じつは半年前、スポーツ中に転んで、膝を痛めました。11月の測定で、膝痛を当てられ、驚きました。今回(2回目)は痛みがなくなったら、膝痛を指摘されず、2度びっくり。歩き方の改善をアドバイスされました。『ためになるよ』と他の人にも教えてあげたい。

◎女性 40代

自分は運動をしていたので、自信があったけれど、速さや着地の仕方など、わかりやすく教えてもらい勉強になりました。少し早く歩くようになり、今回は成果が出ました。オンラインでのアドバイスに違和感はありません。

◎男性 60代

歩き方が図で示されるのがいい。今年の冬は雪が多く、あまり歩けなかったけれど、足の上げ方、踏みだし方がわかったので、意識して歩くようにしたい。

◎女性 70代

歩き方が左右対称でないことがわかり、踵からしっかり着地するようにアドバイスされました。ロボットの受付ははじめびっくりしましたが、楽しかった。民間企業が積極的に協力してくれるのは、とてもありがたい。

◎男性 60代

ふだん気づかないところを指摘され、勉強になりました。

◎女性 70代

蹴る力が足りず、摺り足なので、転倒しやすいと気づかされました。ホコタッチは市役所でプリントアウトしてもらうとき、市の担当者の方とやりとりするので、励みになります。民間企業の機械を利用して連携するのはとてもいいこと。今回参加しなかった友人たちも、参加したいと言っていました。もっと広げたほうがいいですね。

 

多様性を尊重し、支えあう催しに

 今回特筆すべき新たな試みは、感染症予防対策として、従来、対面で行っていたアドバイスにオンラインシステムを採り入れただけでなく、参加者の出迎え、体調確認、検温と手指の消毒を促し、入口への誘導の役割を、分身ロボットOriHimeが担ったことです。そして、このOriHimeを東京のオフィスからリモートで操作したのが、花王グループの障がい者の社員です。

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【左から】 ① 参加者を出迎えるのは分身ロボットOriHime。右側にあるのが手首の検温計(dotBravo Japan製) ② 参加者はOriHimeから体調を聞かれ、答える  ③ OriHimeに促され、手首で検温 ④ 手指を消毒してから入場

手元のタブレットを見ながら、OriHimeを通じて対応する東京の現場
手元のタブレットを見ながら、OriHimeを通じて対応する東京の現場

  分身ロボットの採用は、感染症予防対策に有効なだけではありません。OriHimeは、人々の社会参加を妨げている課題を克服するための分身ロボットです。さまざまな特性を持つ障がい者メンバーがOriHimeを活用して、距離や様々な壁を乗り越えて、業務に積極的に参加できます。

 「花王は『多様な能力・個性・価値観の受容と結集(ダイバーシティ&インクルージョン)』を、企業の基本方針の一つに掲げています」。こう語るのは、本プログラム担当者である花王 GENKIプロジェクトの浜田 薰氏です。「障がいはハンディではなく、ひとつの『個性』ととらえ、障がい者の雇用も積極的に推進しています」。

 花王(本社東京)は自社での雇用を促進しつつ、2005年には、通常職場での就労の不得手な障がい者が働きやすい職場づくりを目指して特例子会社花王ピオニ-(株)を設立しました。現在はピオニーPRDとピオニーOSの2部門があります。「ピオニ-OSの社員は、社内でデータ入力などの業務に携わるだけでなく、近郊の催しであれば、会場に赴いて受付業務を担当することもあります。今回はリモートでOriHimeを操作してサポートしてもらいました」(浜田氏)。

 当日、参加者の皆さんは、はじめは分身ロボットの出迎えに驚いたものの、笑顔で検温等に応じてから、入場しました。

 他方、リモート参加したピオニ-OSの社員も、分身ロボットを通じて距離を超えて測定会をサポートできたことに喜びを噛みしめていました(下表参照)。

 

リモートで案内業務を担ったピオニ-OS社員の声

  • 居場所が違っていても、OriHimeを通じて仕事ができるのが素晴らしい。つながっている感じがします。花王ピオニ-には、自分たち一人一人と向きあってくれるスタッフさんがいます。わからないことはその場で教えてくれる、優しい会社です(鈴木さん)。
  • 以前は現場で接客していましたが、コロナ禍になっても、OriHimeを通じて受付業務ができ、仕事が広がるのがうれしいですね(小林さん)。
  • OriHimeの動きが可愛いですね。今後は、もっともっとスムースにできるように、自分たちも工夫を重ねていきたいです(菅さん)。
   

 この試みは、花王の提案を受け、会津若松市の積極的な賛同を得て実現しました。同市 の新井田氏は、「スマートシティの推進には、障がいをもつ方々にも参加していただきたいものであります。今回、花王さんと連携ができてうれしく思います」と話しています。

 県の本田主幹も「健康づくりとは、食や運動だけではなく、誰もが社会参加できることも重要な要素ですから、とてもよい取り組みだと思いました」と評価しています。

 こうして、今回の「歩行力測定会」は、誰もがそれぞれの個性、特徴を認めあい、ともに社会参加を支えあう「ダイバーシティ&インクルージョン」の意義も確かめあえる機会となりました。

先進のテクノロジーを活用して、新しい可能性が生まれる

 測定会を終え、会津若松市の新井田氏は、今後に目を向けています。

 「参加された皆さんが、ご自身の健康状態を“見える化”でき、取り組みを継続するきっかけになりました。健康づくりは一朝一夕では達成できません。データをしっかり分析し、こうした取り組みを継続し、その輪を広げていくことが大事です」

 また福島県は、これまでを振り返り、評価と課題に言及します。

 「健康指標の改善までには長い時間が必要です。息の長い取り組みです。ですから、1回済んだら終わりではなく、きちんと向きあってくれる企業が、市町村に選ばれるようです。花王さんには、1回限りではなく、プログラム終了後のフォローアップも丁寧にしていただいています。OriHimeの導入など、いろいろ工夫されれば、取り組みはさらに増えていくと思います」(本田氏)

 「今回のプログラムは、市町村の健康課題とニーズにマッチし、さらに自治体と企業が良い形でコラボしていると思います。例えばホコタッチは、タッチするステーション(保健センターなど)に出向くので、市町村の職員さんとのコミュニケーションがとれ、参加者のモチベーションの維持につながるだけでなく、市町村にとっても事業の実施過程に関わることで効果や評価をより実感できます。また、これまでの取組みを通して、民間企業のプログラムは市町村にとってたいへん魅力的なものであることがわかりました。民間企業の皆様には、引き続き様々なご提案をお願いしたいところです」(佐藤氏)

 これを受け、花王の浜田氏は気持ちを新たにしています。

 「これまで実施したプログラムについて、様々な市町村・事業所でご共感をいただき、県内で少しずつ広がってきました。今回はコロナ禍の中、OriHimeの活用や、オンラインアドバイス等、試行錯誤でしたが、県や市、参加された市民の皆様のご協力を得て、スムースに実施できたことを感謝いたします。課題もしっかりとりまとめて、新たな取り組みにつながるように努力したいと思います」

 先進のテクノロジーを活用して、健康づくりと多様な社会参加を促した今回の「歩行力測定会」は、新たな可能性を示すプログラムとなりました。


※「OriHime」は株式会社オリィ研究所の登録商標です。

※検温器はdotBravo Japanから提供されたものです。



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