「和食の保護・継承」を推進する農林水産省と、しっかり食べても内臓脂肪をためにくい「スマート和食」の普及に取り組む花王株式会社。
両者が、食による健康づくり普及で連携。その狙いは――。
和食の健康価値発信で官民が協力!
食を通じた「働き方改革」にも
“和食文化バトンカレッジ2020”
「和食の日」の11月24日、農林水産省で“和食文化バトンカレッジ2020”が開催されました。「学び、考えよう! 次世代への和食文化の継承(バトン)」をスローガンに掲げたこの催しでは、様々な切り口から和食にまつわる講座やイベントが実施されました。
※新型コロナウイルス感染防止のため、当初の予定を変更し無聴衆で行われました。
オープニングセレモニーで、同省大臣官房秘書課の森課長からは「11月の“和ごはん月間”、農林水産省は和食文化継承の観点から、さまざまな企画や行事を催してきました。今日(和食の日)は“和食文化バトンカレッジ2020”として、和食文化の継承について学びましょう。和食はわが国の気候、風土、歴史に根ざしたもの。子どもたち、そして未来の子どもたちに、和食をきちんと継承するのは農林水産省の使命です。」との挨拶がありました。
和食の健康価値について考える講座
こうした中で、「健康」をテーマに行われたのが、「健康美講座」(90分間)です。花王が長年の研究から見いだした健康的な食事法「スマート和食」を通じて、和食の健康価値を科学的に理解し、どのように実践したらよいかを学べる内容になっています。スマート和食と一緒に実践したいエクササイズの紹介も行われました(右表参照)。
⇩ 2020年12月25日現在、以下のサイトで動画が公開されていますのでご覧ください ⇩
基調講演は「カラダの内面から美しくする食べ方スマート和食」
続いてクロストーク。農林水産省の杉中淳審議官(右から2人目)も参加
ヨガインストラクター千秋氏によるスマート和食と一緒に実践したいエクササイズ
もう一つの目的、食を通じた農林水産省の働き方改革
この講座には、もう一つの目的がありました。「農林水産省ならではの『食』による働き方改革!」です。
「食をあずかる農林水産省の職員として、和食の価値を正しく伝えられるようになることは大切なこと」と話すのは、食料産業局の牧野氏(海外市場開拓・食文化課 食文化室 和食保護推進班 課長補佐)です。同時に「私どもは職員である前にイチ生活者です。和食の価値を自分たちの健康のためにも活用できるようになれれば」と講座の意義に触れます。
省内の研修を担当し、今回「健康美講座」の司会を務めた秘書課の兼田氏(企画第1班 企画第2係長)は「職員の健康は、業務の生産性にも直結します。職員が健康に働くことのできる環境を整え、生産性向上を促していく取り組みの一環として職員向けの研修を提供したいと考えました」と趣旨を説明。健康経営や働き方改革が浸透してきているなかで、自らが担当する「食」を通じて農林水産省の働き方改革を進めたいという意欲を感じました。
こうした中で、「健康」をテーマに開かれたのが、「健康美講座」です。
※健康経営=企業等が社員の健康に積極的に配慮することによって「経営面においても大きな成果が期待できる」との考えのもと、戦略的に健康づくりを実践すること
なぜスマート和食?
では、なぜ「スマート和食」が「健康美講座」に採用されたのでしょうか。
和食文化バトンカレッジ2020を企画・推進した食料産業局の亀田氏(海外市場開拓・食文化課 食文化室 係長)はその狙いを語ります。「食は健康の重要な要素です。しかし気にはしていても、不規則な食生活になりがちで、栄養バランスまでは……。和食は健康的と言われますが、どのあたりがどう健康的なのか、どう実践したらよいのか、わかりにくい。そんな中、スマート和食はなじみのある日本の食事をベースに、シンプルでわかりやすく、健康的な栄養バランスが実現できる。そうした取り組みやすさが良いなと思い、今回花王さんに声をかけさせていただきました。」
代謝と内臓脂肪のエビデンスから生まれた「スマート和食」
「じつはスマート和食には、花王の20年以上にわたる研究成果、そして日本型食生活のいいところがぎゅっと詰まっています。」こう話すのは、「健康美講座」で基調講演を務めた花王GENKIプロジェクトの上原智美氏です。
「私どもは『内臓脂肪の蓄積による病気や早世をなくしたい』との想いから、代謝と内臓脂肪の研究を重ねてきました。脳卒中、虚血性心疾患など、健康寿命を損なう病気の元をたどっていくと、多くの場合、内臓脂肪の蓄積から始まっていると言われているのです。」(上原氏)
そこで花王は内臓脂肪に着目した健康づくりに取り組み、X線を使わず簡便に内臓脂肪を測定できる技術を開発。全国各地で1万人を超える人々の内臓脂肪と、その人たちの食生活を調べ、内臓脂肪との関係を研究してきました。「その結果、意外なことに『しっかり食べているのに、内臓脂肪が少ない人がいる』ということがわかったのです。」(上原氏)
こうして、内臓脂肪をためにくい栄養バランスを追求して辿り着いたのが、「スマート和食」だったというのです。
「代謝がよくて腹もちがいい」スマート和食
スマート和食はどんな特色をもっているのでしょうか。花王は3組の栄養バランスに着目しました(右表参照)。
「この3組の栄養バランスが良い食事は、代謝によって燃えやすく、からだの脂肪としてたまりにくく、腹もちがいい。そしてこの3組の栄養バランスを実践するには、日本型食生活の食卓構成や、よく使われる食材、調理法を利用するとやりやすいのです。つまり……」と上原さんは話をまとめました、「花王の研究成果と、日本型食生活のイイトコが出会って、スマート和食ができたのです。」
“しっかり食べるから、続けられる。続くから、効果が出る”
では、日々の食生活をどのように送ればよいのでしょう。そのコツを伝授してくれたのが、上原氏に続いて基調講演に登壇した小島(おしま)美和子氏(管理栄養士、有限会社クオリティライフサービス代表)です。 小島氏は、企業や自治体、健康保険組合などで働く人の食生活改善指導に長年携わっています。
まず小島氏は、日本人の食生活の変化に警鐘を鳴らします。
「日本人の摂取エネルギー量は、実は1970年をピークに大幅に減少しています。今日の肥満傾向は、食べ過ぎが原因というより、食事の『量』は多くないのに、『時間』や『質』(栄養バランス)に問題があって食べたエネルギーが消費されなくなっていることで生じているケースが多い。それなのに、『食べる量を減らして痩せよう』とばかり思っている人がたくさんいらっしゃいます。」と指摘します。
食事の「時間」や「質」の改善に役立つのが、「くらし方3ヵ条」と「食事5ヵ条」です。
「食事の『時間』と『質』が乱れていて代謝が落ち、体重が増えやすくなっているのに、とにかく『量』を減らして痩せようとすれば、エネルギーも、他の栄養素も不足してしまいます。すると、疲れたり、いらいらしたり、体調が悪くなります。筋肉も落ちてしまう。『くらし方3ヵ条』と『食事5ヵ条』を整えてしっかり食べて、少し運動して消費を増やせば、体調はよくなります。その結果、仕事の能率も上がります。いかに体調を上げていくか、それが重要です。」“しっかり食べるから、続けられる。続くから、効果が出る”――これが、スマート和食の力。小島氏はこう締めくくりました。
「ここからが始まり」
「和食文化バトンカレッジ2020」のスピンオフ企画として、農林水産省内のレストラン「咲くら」でスマート和食弁当が1ヵ月間販売されました。4種類の週替わりメニューです。さらに、省内の書店では、スマート和食のことがわかる「おなか痩せの黄金『比』レシピ」も展示・販売。講座だけでなく、実際に食べて、本で詳しく知り、皆さんが家庭でも取り組みやすい提案を職員向けに企画されました。
花王監修のメニューを調理したスマート和食弁当。この日の主菜はハッシュドビーフ(600円)。すぐ売り切れに
スマート和食弁当は農林水産省内のレストラン「咲くら」で販売
省内の三省堂書店の特設コーナーでは、“和食文化バトンカレッジ2020”書籍フェアが開かれ、「おなか痩せの黄金『比』レシピ」も並んだ
講座を終えて、農林水産省では手応えをどう感じているのでしょうか。
「これで終わりではなく、ここから始まりです」と話すのは、秘書課の兼田氏。「研修で民間の知見を取り入れていくことは、職員にとって大きな刺激になり、意識・行動が変わるきっかけとなっています。和食の魅力と健康の重要性が多くの方に広まっていくことを期待します。私も受講者の一人として、積極的に周囲に伝えていきたいと思います。」
食文化室の牧野氏は、スマート和食ランチ(弁当)をメニューが変わる週ごとに食べた、とのこと。「よくある健康弁当は、特に男性にとって、量が少なく味も薄く、もの足りなく感じるものですが、スマート和食弁当にはそういう不満がありませんでした。ですから、すぐに売り切れになってしまうようです(笑)。健康を気にしていても、なかなか実践できない人には、こうした取り組みがきっかけになります。今後、スマート和食と連携して和食の健康価値に関する情報発信、取り組みを強めていきたい。」と決意を新たにしていました。
コロナ禍のピンチを、食を見直すチャンスに!
食文化室の亀田氏は、今回の講座を次のように振りかえります。
「皆さん、食事を変えたいと思っていても、どこから手をつけたらいいかわからない人が多いのではないでしょうか。その入口を今回わかりやすく提示していただきました。スマート和食はとてもシンプルでわかりやすい。ボリュームがあり、視覚的にも美味しそう。職員にも人気でしたが、多くの方にも受け容れやすいのではないでしょうか。」
そして亀田氏は、これからの取り組みこそ大切、と強調します。
「和食が長く受け継がれてきたのは、栄養バランスをはじめそれなりの理由があるのだと思います。コロナ禍でおうち時間が多くなる中、私達のルーツにもどって“和食”に目を向けて、今の厳しい状況を逆に食生活改善のチャンスに変えたいですね。大事なのは、こうしたイベントをきっかけに日常の食生活の見直しにつなげていただくこと。民間企業と連携して、各家庭での和食の摂食率を高められる取り組みを今後もしっかり進めていきたいと思っています。」
農林水産省のこうした感想と抱負を受け、花王ヘルス&ウェルネス研究所 主席研究員の森本聡尚氏は次のように語ります。「私たちは内臓脂肪という健康課題を解決したくて、スマート和食の栄養バランスを見出しました。スマート和食はサイエンスなので、昔ながらの純和食とはちょっと違うのですが、日本型食生活をベースとすることで無理なく、おいしく実践できる。だから新しい和食=スマート和食と名付けたのです。日本の食を担う農林水産省と一緒にその価値を広めていければ嬉しいです。」
民間の健康経営の成果を活かす
花王では、スマート和食を自社の社員と家族の健康づくりに活用してきました。社員食堂でスマート和食ランチを提供し、スマート和食のセミナーや料理教室、動画配信も行ってきました。こうした取り組みの結果、食事バランスを考える社員が増えてきたとのこと。このほかにも歩行を推奨する活動など、様々な健康づくりを行った結果、健康診断結果の改善や、現役期間中に大きな病気で長期休業を余儀なくされる社員の数の減少などのメリットがありました。2015年から6年連続で「健康経営銘柄」(経済産業省、東京証券取引所による)にも認定されています。
「職場の健康づくりは、とかく業務よりも後回しにされがちですが、実は重要な経営資産である労働力を確保し、維持し、その力を最大限に発揮させる、重要な経営戦略の1つ。これは官公庁でも同じだと思うのです。このたび農林水産省の働き方改革という視点でもスマート和食に関心を持っていただいてお手伝いでき、とてもよかったと思っています。」(森本氏)
農林水産省は、伝統的な和食文化の保護・継承を推進してきました。
一方、花王は内臓脂肪をためない栄養バランス・食生活の研究を進め、エビデンスに基づく健康的な食=スマート和食にたどり着きました。
アプローチこそ異なるものの、価値と魅力が再発見された食を通じた健康づくりで、両者連携のイベントが今回実現しました。こうした官民協働の取り組みが、職場や家庭に今後さらに広がることが強く期待されるところです。
※「スマート和食」は、花王株式会社の登録商標です。
※「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。