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スペシャルインタビュー 網走市水谷洋一市長 

水谷市長
水谷市長

豊かな自然環境に恵まれた網走市。農業と漁業の取組みについて、元農協職員で本家は漁師のバックグラウンドをもつ水谷洋一市長に話しをうかがった。

網走市は広大で肥沃な土地と魚介類の宝庫であるオホーツク海に恵まれています。この財産を生かし、後世に引継ぐためには農業と漁業の持続可能性が不可欠ですね。

 持続可能な社会と経済成長は不可分の関係にあると思います。当市では、世界がSDGsを掲げる以前から農業と漁業が持続可能で経済成長する仕組みを作り、発展させてきました。

大型畑作経営
大型畑作経営

 代表的なのが「営農集団組織」を核とした大型畑作経営で、1962年の第1次農業構造改善事業を契機に組織されました。大型機械の導入や共同所有・共同利用によりコストを下げるとともに種まきや耕作、収穫を一緒に行い、効率的な農業生産形態を築いたのです。現在は麦類、甜菜(てんさい:砂糖の原料)、馬鈴薯(じゃがいも)の基幹作物を中心に、大根、長いも、ゴボウ、ニンジン等の野菜類も組入れており、一帯は、食の自給率900%を超える農業地域になっています。栽培では、同じ作物を同じ耕地に毎年続けて栽培する「連作」は基本的にしていません。土壌の栄養バランスが崩れ、病害虫被害が出るためです。代わりに「輪作」により、作物の種類を分け年数ごとにローテーションしながら栽培しています。

ホタテ稚貝の放流
ホタテ稚貝の放流

 漁業においても同様の取組みを行ってきました。代表的なのが「海の力で育てる漁業」です。例えば鮭では、地域全体で年間1億粒以上の卵を孵化させて川に放流しています。ホタテは海を汚さない地撒き式で無給餌養殖しています。1年間育てた稚貝を海に放し、海底で3~4年間成長させて漁獲する方法です。通常の養殖は餌をまくため海を汚染しがちですが、自然の力を上手に使えば汚染を回避しながら安定した収穫を得ることができます。

鮭稚魚の放流
鮭稚魚の放流

 農業と漁業のパートナーシップも始まっています。網走川が流入するオホーツク海沿岸ではホタテが育まれ、網走川の下流に位置する網走湖はワカサギやシジミの漁場です。また、網走川上流で孵化する鮭は長旅の末、産卵のために再び川に戻ってきます。持続的な漁業を営むためには河川の環境保全や土砂流入の防止が大変重要であることから、農業者等流域で活動を行う産業者と協議を重ね、2010年に「網走川流域での農業と漁業の持続的発展に向けた共同宣言」を締結しました。農業者と漁業者の利害は対立することが多いため、画期的といえるでしょう。

有機酪農
有機酪農

 その後、有機栽培や減農薬栽培、土砂の流入防止を実践する農業者や負荷低減に取組む企業、生態系の維持保全を行う団体等、多くの関係者が網走川の環境保全に努めるようになりました。そうした活動に感謝の意をこめて漁業者は「網走川流域応援団」を発足。「応援証」を贈呈し、環境にやさしい取組を広く周知しています。

課外授業
課外授業

 2015年には、農業者や漁業者をはじめ流域住民、関係団体、企業、行政機関、研究機関が交流・連携する「網走川流域の会」が発足しました。シンポジウムや研究会、課外授業、流域一斉清掃等を通して人・産業・自然が共生する流域社会の構成を目指しています。

 市役所としては、2017年に組織改革をしました。以前、農業と漁業は別々の部でしたが、農林水産部として統合したのです。地域経済が流域では一体であることと、どちらか一方の利益ではなく両方のパイを広げるためです。本日開催の「あばしり麦フェスタ2019」と「網走”海湖(シー)“フードフェア2019」は、もともとは別々に開催していましたが、農業と漁業が一体化した地域社会づくりを「食」を通して市民に普及するために共催することとしたのです。

特に農業政策における新しい取組みについてお聞かせください。

大麦(もち麦)畑
大麦(もち麦)畑

 大麦の栽培です。農業振興計画の中で、基幹作物3種に大麦を第4の作物として明確に位置付ける方針です。理由の一つは、じゃがいもです。実は輪作においても、じゃがいもは病気に強い方ではありません。土壌の健康を維持するために、もう1品必要と考えたのです。一方で、新たな品種を入れると、設備投資がかかってしまう。様々な候補を調べた結果、小麦との連作障害を起こさないのが大麦であることがわかったのです。既に大麦では、ビール用を中心に耕作面積約1000ha(1千万㎡)を栽培しており、これを基幹作物に加えることが持続可能な畑作経営に貢献すると考えました。

 

 もう一つは、食用大麦の可能性です。健康志向で大麦、特にもち麦の機能性が注目されています。私自身、もち麦を毎日摂り入れ、お通じがよくなる等の効果を実感しています。テレビ番組で紹介されるとスーパーの棚から商品が消えてしまう現象が起きています。一方で、国産の供給が極めて少ないのが現状です。ならば当市一帯で産地形成できると考え、当市や農協の農業振興計画に大麦の生産を入れました。ただし、大麦は装置産業です。野菜と違って作れば市場に出せるのではなく、乾燥、調製、貯蔵といった行程が必要です。今のままでは施設整備が不足するので、そうした整備を含めた政策を打ち出していかなければならないと考えています。

◎水谷  洋一(みずたに  よういち)

1963年網走市生まれ。

早稲田大学卒業  北海道大学大学院修了。

1987~1995年 JA北海道中央会勤務 。

在職中、農協監査士としてJAの監査と経営指導にあたる。その後、衆議院議員武部勤公設第2秘書を務める。

1999年 網走市議会議員当選

2010年9月 網走市議会議員辞職

2010年12月 網走市長選挙当選(1期目)

2014年12月 網走市長選挙当選(2期目)

2018年12月 網走市長選挙当選(3期目)

現在、北大公共政策学研究センター研究員



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