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スペシャルインタビュー 笹谷 秀光さん

 2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。その実施に向け、日本政府もオールジャパンの基盤整備に取組んでいる。一方で一般の認知度は全体で14.8%(電通が全国10~70代の男女計1400名を対象に2018年2月に実施)の水準にあり、何よりも「わかりやすい」普及啓発が急務となっている。SDGsをどう捉えればよいのか、豊富な行政・ビジネス経験をもち、「持続可能性」や「地方創生」をライフワークに活躍する笹谷秀光さんにお話しをうかがった。

最初に「伝わる言葉」へのこだわりについてお聞かせください。

 私は31年間農林水産省におり、環境省や外務省にも出向しました。国際交渉では、国際問題を読み解くことが必要です。しかし、横文字だとどうしても日本人にはわかりにくい。「和の心」で説明できないかと常に工夫していました。企業に移ってからは特にそうです。腑に落ちるような表現で伝えなければビジネスマンには通用しませんから。

 

 2010年にISO(国際標準化機構)が発行したISO26000という規格があります。組織の社会的責任に関する手引きで、自治体や企業、病院、学校等すべての組織が社会との接点をどのように保てばよいのかをマニュアルでまとめた大変よくできている国際合意のある文書です。ところが「ISO26000」と聞くとなんだか面倒臭いと思われてしまう。私は、「Guidance on Social Responsibility」の直訳である「社会的責任の手引き」の方が伝わりやすいと思い、使い続けています。

 

 「社会的責任」は世界的な動向となっています。この国際規格はこれに「本業で取り組む」という要素を明記しました。慈善事業での寄付行為は長続きしません。収益が順調な時にはよいが、そうでなければ打ち切らざるを得ないからです。本業であれば、インフラや食品、情報通信等それぞれの競争分野を極めている企業のノウハウを生かせ、世の中を変えることにもつながる。CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)が本業を通じて実践されるようになってきたのです。ただし、「責任」という言葉では狭い意味になってしまう。私は「Response」プラス「Ability」と理解して、「反応する能力」、つまり「企業の社会対応力」として捉え直すべきと考えています。

 

 2011年には、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授がCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という概念を発表しました。企業戦略の権威であるポーター教授は、「社会課題を解決しながら、同時に経済価値も実現する方法でないと、これからの企業の新たな成長は難しい」と述べています。私は、日本の「三方よし」の考えに近いと思いました。「自分よし、相手よし、世間よし」をモットーとした江戸時代の近江商人の商習慣です。今でも重要な経営戦略として引き継がれています。ただ、「CSV」といってもピンとこないので、日本人にとって「ああ、あれね」と腑に落ちる言葉である「三方よし」として理解し、磨き直して立脚点に立つべきと考えています。

 

 ところが一方で「陰徳善事」という考えも根強い。これには「自己顕示や見返りを期待せず、人のために尽くしなさい」、つまり「徳は隠す」という意味があります。「何も言わなくてもわかる人にはわかる」、「空気を読め」という日本人特有の発想で、これが日本人による発信力を抑えてきたと考えています。

その課題を克服するには?

 私は「三方よし」に発信を付ける「発信型三方よし」を提唱しています。そうしないと、二つの問題が生じるからです。一つは、発信しないと何を考えているのかわからないので、仲間が増えません。もう一つは、仲間が増えないのでイノベーションが起こらないし、変化に対応できません。発信力を付ければ、企業や組織はブレークスルーできるはずです。

 

 この考えは2000年に成人を迎えたミレニアム世代をはじめとする世代間の理解にも役立ちます。フェイスブックのザッカーバーグ最高経営責任者がその世代の代表で、物心ついたころからSNSがありました。彼らは情報の進化を使いこなしながら、それまでの価値観を変えてしまった。瞬時に情報が世界中に拡散する中、自分たちで情報の良し悪しを判断するようになったのです。以降の世代は、経済や環境、社会の3つの要素をバランスよく捉える処理能力を身に着けました。地球温暖化や地域紛争等、将来の地球や明日の社会が不安定になった今、彼らにとって「持続可能性」は最優先課題です。「発信型三方よし」は全世代の共通言語になり得るのです。

 

 今までのお話を踏まえ、SDGsをどのように捉えればよいのでしょうか?

私はSDGsをCSVの流れで位置づけ、「持続可能性」を「世のため、人のため、自分のため、子孫のため」と捉えています。「子孫のため」という世代軸を入れているのがポイントです。子孫を考えることこそが、未来の世の中を一つにするからです。

 

 世界の政府や自治体、企業、関係者全員で取組むべき課題を洗い出したら17つの目標になったのがSDGsです。その根幹には、人間(People)に不可欠な「飢餓や貧困の根絶」や「健康」があり、一方で先進国も含めた「繁栄」(Prosperity)があります。そして地球(Planet)を考えたときの「環境」と人類全体の「平和」(Peace)が続き、最後に全体で取組むための「パートナーシップ」(Partnership)で括っている。これら5つの「P」の設計構造を理解すると普遍的な目標であることがわかります。「明るい未来づくりのための羅針盤」と捉えるとわかりやすいでしょう。「未来のため、子孫のために」17の目標にみんなで取組むというイメージです。

 

 2020年東京五輪・パラリンピックを控え、日本人は真の国際人にならねばなりません。SDGsは国際的な標準言語です。これを使えば相互理解を育むことができます。現に政府は、「SDGs五輪・パラリンピック」にすると表明し、これを通じてSDGsの幅広い浸透を目指しています。

 

 さらに2019年の「G20」や「2025・大阪関西万博招致」といった国際関係もSDGsが基準となります。これをしっかり理解し活用しない手はありません。幸い、日本人はそのポテンシャルが高い。多くの自治体や企業でも高いレベルで実施しています。そうした活動を17の目標それぞれと関連付けながら紐づけ、さらなる高みを「発信型三方よし」で極めていくことが肝要ではないでしょうか。

◎プロフィール 笹谷 秀光(ささや ひでみつ)

CSR/SDGコンサルタント/ 株式会社伊藤園顧問/ 日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、サステナビリティ日本フォーラム理事/ 学校法人千葉学園評議員/ 宮崎県小林市「こばやしPR大使」/ 地方創生まちづくりフォーラム「まちてん」実行委員長(2016,2017)

 

東大法学部卒。1977年農林省(現農林水産)入省。フランス留学、外務省出向(在米国日本大使館一等書記官)。環境省大臣官房審議官、農林水産省大臣官房審議官、関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年伊藤園入社、2010年-2014年取締役。2014年-2018年4月まで常務執行役員CSR推進部長。2018年5月より伊藤園顧問。

 

◎笹谷秀光公式サイト  ―  発信型三方良し ― https://csrsdg.com/



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