長島愛生園と邑久光明園に大島青松園(香川県高松市)を加えた瀬戸内海3園が世界遺産登録を目指している。世界遺産登録の目的は、ハンセン病療養所と回復者の歴史を将来世代に継承し、同じ過ちを繰り返さないようにするとともに、長島の属する瀬戸内市邑久町虫明地域の持続可能な発展に向けた環境づくりを進めることである。ハンセン病療養所内に存在する建造物群等を「ユネスコ世界文化遺産」として、ハンセン病回復者等が生きた証を示す資料等歴史的記録物を「ユネスコ世界の記録」としてそれぞれ登録することを目指している。
「長島には、収容された時の桟橋や監房跡・監禁室、十坪住宅、学校、宗教施設、納骨堂、そして邑久長島大橋といった建造物が揃っている」と語るのはNPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会の釜井事務局長だ。全国の療養所にも単体では残っているが、生活史をストーリーとして伝えることができるのは長島だけという。世界遺産登録のきっかけは、「語り部」の高齢化だ。「言葉以外で伝承する方法を自治会が検討し、建造物を文化財として登録する案が浮上しました。」さらに世論を喚起するために世界遺産の旗を掲げ、NPO法人を設立した。
釜井事務局長は「世界遺産を目指すには、国の重要文化財や史跡への指定が必要だが、そのための年数や価値付けが現状の療養所では不十分だ」と述べる。そこで段階的に進めるために、まずは比較的に基準が緩やかな国の登録有形文化財への登録を申請。2019年3月には、文化庁により長島愛生園の建造物5件、邑久光明園の建造物5件がそれぞれ登録された。国立ハンセン病療養所が所管する建造物が文化財保護法に基づく文化財として登録されたのは初の事例という。「今回の登録はハンセン病問題基本法が定める地域開放と歴史的建造物の保存へのブレークスルーになると思います。全国の療養所に波及していき、各地で療養所と入所者の歴史を伝える手段として登録有形文化財への登録が増えることを期待しています。」
長島愛生園(写真:NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会)
邑久光明園(写真:NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会)