神奈川県は横浜市や鎌倉市との共催で「SDGs全国フォーラム2019」を開催した。目的は自治体SDGsの取組みを国や民間企業、NPO等との連携で全国に発信し、地方創生に向けた結束を促すことだ。本稿では、主な発表内容の概要を報告する。
日時:平成31年1月30日(水)/会場:パシフィコ横浜
主催:神奈川県/共催:横浜市、鎌倉市
後援:内閣府、外務省、環境省、地方創生SDGS官民連携プラットフォーム
SDGs市民社会ネットワーク、日本経済団体連合会、国連広報センター
UNGCジャパン、全国知事会、全国市長会、全国町村会
協力:地球環境戦略研究機関、横浜青年会議所/特別協力:株式会社ファンケル
メディアパートナー:朝日新聞社、神奈川新聞社/参加者:1215名
第1部「SDGsモデル宣言採択」式典
黒岩祐治神奈川県知事による開会挨拶に続き、片山さつき特命担当大臣らが登壇。官民が連携する自治体SDGsの意義を訴えた。続く「SDGsモデル宣言」では、黒岩知事が3つの柱で地方創生を目指す決意を表明。全国90を超える自治体の賛同のもと、片山氏らとともに署名した。
片山 さつき氏(内閣府特命担当大臣)
内閣は全国務大臣を構成員とするSDGs推進本部を設置し、国内実施と国際協力の両面で推進している。先駆モデルを創出するため、2018年には29市をSDGs未来都市に認定した。今年も30都市程を選定するために募集要項を公開したばかりだ。選定した自治体には、関係省庁や有識者が推進を支援し、モデル自治体には財政支援を行う。2018年に立ち上げた「SDGs官民連携プラットフォーム」にはすでに570を超える団体が加盟しており、部門や領域を超えた協力体制が整いつつある。「SDGsアクションプラン2019」のテーマは、「ソサイエティ5.0の推進」、「地方創生」、「次世代・女性のエンパワーメント」の3本柱だ。SDGsが重要なのは、市民生活に密着していること、地域特性を踏まえていること、皆が参加できること、多様なステークホルダーと連携できることだ。それらを実施する主体として、自治体に努力いただきたい。そして、今年日本で開催するG20サミット等に向け日本のSDGsモデルを国際社会に訴求したい。
根本 かおる氏(国連広報センター所長)
SDGsを自分事化し推進するには、自治体の存在が不可欠だ。今回の宣言を通じて様々なステークホルダーがパートナーシップで繋がるだろう。国連が毎年7月に開催する「ハイレベル政治フォーラム」では自治体が主役だ。目標11の「住み続けられるまちづくりを」を中心に、すべての目標において自治体が不可欠な存在だからだ。自治体こそが、気候変動や格差の解消、災害等の問題解決に住民や企業を巻き込むことができる。日本の自治体は人口減少や超高齢化等世界最先端の課題に向き合いながら持続可能な地域づくりを進めている。現在、約40億人が都市住民であり、2050年までに途上国の人口が倍増する見込みだ。日本の経験と英知はグローバルな好事例となる。
第2部 「SDGs日本モデル」における自治体の役割
SDGsと地方創生について内閣府と外務省の担当官が報告し、先進的な自治体が事例を発表した。
甲木 浩太郎氏(外務省国際協力局地球規模課題総括課長)
総理(SDGs推進本部長)は閣僚に、「SDGs推進の流れを大企業から中小企業にも広げ、全国にSDGsの活力を行き渡らせるように」と力強く指示した。経済と金融への期待が大きい表れだ。上場企業がSDGsを社業の中核に位置付ける中、ESG投資が2017年から顕著になっている。象徴が経団連だ。同年11月に企業行動憲章を改訂し、「ソサイエティ5.0」を通じたSDGsの達成を掲げた。一方の中小企業がどうか。その多くが小規模経営で株式を上場していない。そうした企業がSDGsをどのように活用するのかが課題だ。株式市場での資金調達はないが、製品やサービスが市場から高く評価され、利益として還元されることは十分あり得る。自治体には、地域金融機関を通して地元中小企業を支える仕組みづくりを後押しいただきたい。
国谷 裕子氏(モデレーター、フリージャーナリスト)
最近ダボス会議に参加した際、SDGs達成への熱気を肌で感じた。背景には、2018年10月に国連気候変動に関する政府間パネルが公表した「1.5℃特別報告書」がある。予想していたよりも速いペースで温暖化が進んでいる事実が衝撃をもたらしたのだ。気候変動と同時に、不平等や飢餓人口の拡大といった様々な不安定要素がもたらす危機感が大きなうねりになっている。SDGsは不安定な世界を変革するツールだ。変革を進める上で、リーダーシップは重要である。本セッションではSDGsで何を重視しているのかについてお話いただきたい。
黒岩 祐治氏(神奈川県知事)
SDGsのような包括的な取組みでは、まず行政が部署を超えて連携しなければならない。「命輝く神奈川」を掲げたのはそのためで、医療だけでなく農業や教育、環境、エネルギー、まちづくりを繋げる狙いがある。ただし抽象的なので、わかりやすい目標として「かながわプラごみゼロ宣言」を掲げた。これは、2018年5月に由比ガ浜海岸に打ち上げられたシロナガスクジラ赤ちゃんから発想した。胃からプラスチック片が検出され、プラスチックゴミによる海洋汚染の広がりが指摘されたのだ。そこでクジラをメッセージにし、ゴミと海洋生物の命が繋がっていることを表現した。「命輝く神奈川」では同時に、超高齢社会を乗切るための「未病」の改善も掲げている。「未病」とは発病には至らないものの軽い症状がある状態で、改善には食や運動、社会参加が不可欠だ。当県では医療の充実とともにそれらを支えるコミュニティづくりに力を入れている。
鈴木 康友氏(静岡県浜松市長)
当市は人口、面積ともに佐賀県と同じ規模だ。国土縮図型都市と言われ、あらゆる課題が集積している。第一に取組むのが林業の再生だ。違法伐採や廉価な木材の流通を阻止するために、森林管理協議会(FSC)による森林認証制度をサプライチェーンで採用し、経済的にも持続可能な森林管理を推進している。二番目が再生可能エネルギーだ。新エネルギー推進事業本部を設置し、スマートシティ推進協議会を官民連携で立上げた。まち全体のスマート化を図っており、太陽光発電量は現在日本一だ。三番目が多文化共生だ。1990年の入管法改正以来日系ブラジル人が多く居住しており、30年間多文化共生を育んできた。2018年の入管法改正により、外国人労働者の数は増え続けるだろう。状況を鑑み、当市はアジアで初のインターシティネットワークに加盟した。外国人労働者の能力を積極的に生かす政策を導入する方針だ。
竹内 千尋氏(三重県志摩市長)
当市は伊勢海老漁をSDGsのシンボルにしている。「プール制」という共同漁業均等分配の取組みがそれで、通常1人乗りの漁船に一定期間5人の船頭が乗り、収穫を均等に分けるシステムだ。まず燃料のコストや網の消耗が五分の一になる。作業が軽減する一方で収穫量が若干増え、人間関係が良くなるメリットもある。「過度な競争よりも、互恵精神で分ちあう方が皆のためになる」という経験値から、当地の沿岸漁業従事者が昔から自主的に行っている世界的にも希有な漁業だ。さらに当市では、持続可能な食材を使うシェフのグループ、「シェフズ・フォー・ザ・ブルー」への伊勢海老の供給を支援し、持続可能なシーフードの普及を支援している。
第3部 「SDGs日本モデル」に向けた金融モデルとビジネスの力
民間企業、特に金融ビジネスの力でどのようにSDGsを推進するのかを議論した。
河口 真理子氏(モデレーター、株式会社大和総研・研究主幹)
今日の「経済ファースト」を「地球ファースト」に変えるのがSDGsだ。そのためには意識を変え、何をするのか決める必要がある。企業では最近、SDGs経営への取組みが増えてきた。金融ではESG投資、消費者ではエシカル消費が注目されている。SDGsでは特に牽引役としての金融が大切だ。プラットフォームを作り、最終的にエコと経済が両立する地域モデル作りを支援しなければならない。
金井 司氏(株式会社三井住友信託銀行フェロー役員チーフ・サスティナビリティ・オフィサー)
国連の調査によると、SDGsの目標すべてを達成するには、2030年までに年間約120~840兆円の投資が必要と推定されている。政府資金だけで賄うことは不可能に近い。大きな役割を担うのがESG投資で、世界の総額は2千500兆円に上る。これは総投資額の四分の一強の規模だ。およそ半分が欧州で、日本の総額は2018年に230兆円を超えた程度だ。最近話題のインパクト投資はESG投資の一つで、社会的課題の解決につながるビジネスを行う企業への直接投資だ。社会的課題の解決と経済的利益を両立させるのが目的で、高い成長が見込まれる。金融機関は全業種に関わっているので、インパクト投資でのお金の流れを作ることができる。ただ、何に対していくら流すのかがわからない。そこで「持続可能な金融」が欧州を中心に議論され、投資先を定義する「タクソノミー(分類法)」に基づき、2017年1月に「ポジティブ・インパクト金融原則」ができた。これにより、ネガティブ・インパクトをもたらす例えば発電用石炭生産企業への投資が禁じられるようになった。脇役だった金融が主役になる時代になったのだ。新たな金融は、ESG投資で持続可能な資本主義を機能させようとしている。
高橋 巧一氏(株式会社日本フードエコロジーセンター代表取締役)
「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」受賞
現在、食品ロスの殆どが自治体の焼却炉で燃やされている。廃棄物の年間処理総額は約2兆円。4~5割が食品ロスなので、8千億~1兆円分を税金で焼却していることになる。一方で家畜の餌の大半は米国からのトウモロコシの輸入に頼っている。食料自給率40%を切る日本がこんなにもったいないことをしていてよいのか?当社はこうした食品ロスを飼料化するために、2005年に相模原市に開業した。現在、スーパーやコンビニ、食品メーカー、百貨店等180の食品関連事業者から毎日およそ35トンの廃棄物が運び込まれる。それを殺菌発酵処理し、液体状の餌(リキッド・エコフィード)に加工している。乾燥化には膨大なエネルギーコストとCO2の発生が伴うためだ。これにより、事業者はリサイクルしながらのコストダウンが、畜産農家は国産の安い餌の購入が、自治体は歳出の軽減ができる。当社としては、事業者と畜産農家の両方から利益を得て雇用を生み出しており、このビジネスモデルが今回の受賞理由となった。当社はさらに生産した豚肉をブランド化して大手スーパーや百貨店で販売している。食品ロスは世界の問題だ。「もったいない」の精神文化を持つ日本のビジネスモデルとして世界に広げたい。
SDGs日本モデル宣言
私たち自治体は、人口減少・超高齢化など社会的課題の解決と持続可能な地域づくりに向けて、企業・団体、学校・研究機関、住民等との官民連携を進め、日本の「SDGsモデル」を世界に発信レます。
① SDGsを共通目標に自治体間の連携を進めるとともに、地域のおける官民連携によるパートナーシップを主導し、地域に活力と豊かさを創出します。
② SDGsの達成に向けて、社会的投資の拡大や革新的技術の導入等、民間ビジネスの力を積極的に活用し、地域が直面する課題解決に取組みます。
③ 誰もが笑顔あふれる社会に向けて、次世代との対話や
ジェンダー平等の実現等によって、住民が主役となるSDGsの推進を目指します。