· 

持続可能な開発目標と健康都市(後編)

健康都市活動支援機構は、「持続可能な開発目標(SDGs)と健康都市」をテーマにセミナーを開催しました。

本会では、SDGsを行政や企業経営の視点でわかりやすく解説するとともに、まちづくりを中心とする事例を共有し、自治体と企業とのパートナーシップによる社会イノベーションについて展望しています。

後編では、秋山浩保氏と似内志朗氏による講演、中村桂子氏による「まとめ」、そしてSDGsに関連した機構の新規事業の告知を掲載しています。


講演2

「健康都市とSDGs ~柏市における地域包括ケア~」

秋山 浩保氏

■プロフィール

秋山 浩保(あきやま ひろやす

千葉県柏市長

1968年9月  千葉県生まれ。

1992年3月  筑波大学第三学群国際関係学類卒業。

        同年、外資系コンサルタント会社のベイン・アンド・カンパニー入社。

1993年     宅配ピザの株式会社フォーシーズ入社。社長室長、常務取締役を歴任。

1997年     大前アンドアソシエーツ設立に参画。

        その後、経営コンサルタントとして、さまざまな会社の役員を歴任。

2009年11月 柏市長選で初当選し、第6代柏市長に就任。現在3期目。


環境未来都市

秋山氏
秋山氏

 蟹江先生が、SDGsの前身であるMDGsについてお話しされましたが、日本はこの目標に対して「環境未来都市」構想を進めています。政府の掲げる新成長戦略に基づき創設された制度で、「環境」と「超高齢化対応」に向けた先進的な都市づくりが目的です。指定地域には国が財政支援や規制の特例措置等を実施しており、柏市はこの「環境未来都市」に認定されています。

「環境」では、柏の葉キャンパスにおいて「公民学連携による自律した都市経営」を掲げ、環境・エネルギー問題に対する「スマートシティ」に取組んでいます。地域での自然・未利用エネルギーの発電・蓄電、街区間電力融通、エネルギーの「見える化」による住民参画型の省エネ活動等により、地域で自律的に環境・エネルギー問題を克服する災害に強いコミュニティづくりを行っています。

「超高齢化対応」では「健康長寿都市」を掲げ、疾病・介護予防サービスを包括的に提供する「トータルヘルスケアステーション」を創設しました。地域の高齢者にリハビリテーション・口腔ケア・栄養指導・訪問ケアを行うとともに、元気な高齢者には「市民健康サポーター」として地域の健康サービスに貢献できるよう育成講座を開設し、地域住民が自律的にイキイキとした暮らしを支えあうコミュニティづくりを行っています。

高齢化先進国の課題

 SDGsに対しては、「ジャパンSDGsアワード」に手を挙げているわけではありませんが、当然自治体として取組んでまいります。同時に健康都市連合日本支部に所属し、「健康都市」の概念に基づき市の運営を行っています。そこで本日は、「健康」に焦点を当て、「目標3」の「すべての人々に保健と福祉を」における自治体の具体的な取組みについてお話します。

「目標3」には、「妊産婦死亡率」、「新生児死亡率」、「感染症対策」といった指標がありますが、SDGs策定の経緯上、開発途上国の健康と福祉を意識した項目が並んでいます。高齢化先進国日本にあって、柏市やさいたま市、横浜市のように東京郊外に位置する自治体ではどのような指標が重視されるのでしょうか?我々は、「健康寿命」、「予防」、「がん」、「低下した自立度における生活」、「先進医療技術の普及」を設定しています。これらは厚生労働省も重視しており、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」により、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができる仕組みづくりを行っています。

公と民のパートナーシップ

 「地域包括ケアシステム」の背景をお話しする前に、「公と民のパートナーシップ」について触れたいと思います。SDGsの「目標17」は、「パートナーシップで目標を達成しよう」を掲げています。我々市役所でも民間企業とのそれを特に重視しています。医療や介護の政策誘導は国や自治体が行いますが、実際に運営しているのは民間企業だからです。スライドには「現場と政策を融合させる」とありますが、「公」は現場をよくわからないまま制度設計してしまう問題があります。また、規制側に回ってしまい、「民」のダイナミズムを引き出せなかったりもします。そこで我々はパートナーシップを通して状況を正しく認識し、「民」が競い合って「質」を上げていけるような政策誘導を行っています。

高齢社会の実態

 まずは背景です。スライドは、柏市の2016年と2025年の年齢構成の変化を表しています。現在は団塊と団塊ジュニアの世代層が厚く、2025年には、75歳以上の高齢者が2016年の1.6倍になると予測されています。この状況は首都圏の自治体のほぼ全てに当てはまります。この1.6倍がなぜ大事なのでしょうか?

次のスライドは年齢別の要介護率を表しています。行政的には65歳以上が高齢者と定義されますが、65~69歳の98%は元気です。高齢になるにつれ要介護率が上がり、85~89歳になると介護認定者は40%で、そのうち要介護3以上が20%となります。5人に1人が自立出来ていない状況です。90歳以上だと要介護3以上が約33%で、3人に1人が自立できない状況になります。

2011年と2025年の対比で75歳以上の人口推移を見ると、わずか14年間で80~84歳が2.1倍、85~89歳が2.4倍、90歳以上が2.6倍になるのがわかります。こうした状況から、2016年から2025年の要介護3以上の割合は1.7倍と、現状の2倍弱まで増加することが推定されます。これだけの変化が柏市をはじめ首都圏の自治体で起こるのであり、どのように対応していくのかが、まさに高齢化先進国の「健康都市」を支える自治体の大きなテーマなのです。

現在の医療・介護サービスが1.7倍必要となるのですが、わずか9年間でそれを達成するのはほぼ不可能です。ご両親を介護している方はおわかりだと思いますが、要介護3になると、介助無しでトイレや風呂を使うことはできなくなる。今は人手不足等の問題がありながらもなんとかやっていますが、今後は大変厳しくなります。今まで、自立度が落ちた高齢者には、病院や特養、有料老人ホームといった施設でのケアで対応してきました。高齢者数の増加に施設数が追い付かなくなると、併せて在宅ケアに力を入れなければ高齢社会における健康都市は維持できなくなります。とはいえ、在宅ケアが法律で規定されたのは2年ほど前で、未だ自治体の仕事としては認識されていません。こうした中、我々は7年前から在宅対応の医師数を増やし、医療と介護の連携を深め、在宅ケアへの信頼度と高めるなどしてきました。自治体のSDGsを細かくして現場レベルまで行くと、こうした活動が浮彫りになるのです。

行政の役割

 次に具体的なお話しをします。日本の医療や介護制度は民間の事業者が担っており、競争することで質や量を保っています。しかし、在宅ケアに関しては、経済的インセンティブだけでこれらを確保するのは困難です。そこで、経済的インセンティブに行政の事務局機能を補完することにしました。事務局機能とは、「医師への働きかけ」、「多職種間の連携」、「市民への啓蒙」等の枠組みを作り、推進することです。

まずは「医師への働きかけ」ですが、実のところ、殆どの医師は在宅医療に後ろ向きです。主な理由は、間もなく亡くなるであろう患者を診なければならないことです。夜中に容態が急変した場合、深夜に駆けつけねばなりません。一方で収入との兼ね合いがあります。首都圏では診療所に通う高齢の患者が増えており、診療報酬が確保できることから、敢えて在宅医療に取組むインセンティブが働きにくいというわけです。

そこで我々は医師を説得することにしました。「30年間開業医をされていて、その間、患者さんは徒歩や自転車で通われてきましたが、歩けなくなった患者さんをどうされるのですか?、やはり医師として自宅に赴かなければならないのではないでしょうか?」と。結果、在宅ケアを引き受けていただく医師を増やすことができました。

地域包括ケアシステムの仕組み

 次に「多職種間の連携」ですが、在宅ケアでは医療施設でのチーム医療と違い、医師やケアマネージャー、看護師、介護士らがバラバラに1人の利用者を診ることになります。これだと情報の共有が困難になってしまう。そこで連携を図ることができる土台づくりを行いました。平成22年に担当室を設置し、平成29年には課長1人と職員8名(うち保健師4名)、臨時職員3名(うち専門職2名)というスタッフを介護保険とは別対応で配置しています。人口約42万人、要介護1万人の自治体レベルでこれだけのことをしているのは柏市だけです。

ところで、在宅対応の医師は総合医でなければ務まりません。現在の医師は循環器や内科、外科といった専門分野に分かれています。一方、高齢患者になると、褥瘡や多臓器障害といったはじめさまざまな疾病を抱えることになります。足腰が弱くなるので、整形外科の知識も必要になる。広範囲なので、不安を抱く医師が出てきます。そうは言っても、医師として基本知識を持っているので、ちょっとしたきっかけがあれば対応は十分可能です。そこで東京大学の協力により、在宅医療ためのプログラムを作成しました。また、24時間対応への負荷軽減では、違う医師がバックアップする「主治医副主治医体制」で臨んでいます。

「多職種間の連携」では、病院のようにチームで患者に対応することが必要で、そのためには、多職種間でのスムーズな意思疎通が必須です。そこで、医師を含めた多職種による共同研修会を実施し、在宅ケアの知識を学びながら、顔の見える関係づくりを行うことにしました。この点、民間の事業者は利用者へのパフォーマンスを上げるために努力し、他社と競争しています。競争により医療や介護の質が高まるのですが、競争相手であるために横との連携が希薄です。医師であっても、目の前のリハビリテーションのスタッフとの意思連携が取れていないことがある。豊富な知識を持つケアマネージャーも医師や歯科医師の治療方針を十分に理解しているわけではありません。所謂、役所の縦割りが医療や介護の業界に存在するのです。それだと患者にとってはマイナスです。例えば、医師が患者への訪問時に口腔に異常が認めた場合には、ケアマネージャーに所見を伝える。ケアマネージャーの報告を受け、歯科医師が数日後に在宅治療を行う。緊急の場合はもちろんのこと、そうでない場合でも事業者間ですぐに連携できる体制が在宅ケアでは大事なのです。

とは言え、この「連携」は困難で、それには土台づくりが必要です。まず、顔と名前と大まかな性格がわかっていないと、リストはあっても電話をかけづらい。そこで土台を作るために、「顔の見える会議」を開催することにしました。会議には、ある症状を学ぶために医師や薬剤師、歯科医師、栄養士、ケアマネージャー、介護士といったいろいろなスタッフが集まります。名刺交換をし、小グループに分かれて勉強会をすることで、お互いの人となりを理解することができます。何度も参加することで繋がりができ、さらにその先を紹介してもらうことで医療と介護のネットワークが広がるのです。ここでは、医師も皆さんと同じ目線で情報交換をし、関係づくりと勉強会を行っています。

勉強会のテーマとして、例えば「高齢者の救急搬送」があります。2017年度には、市内で救急車が2万回出動しました。依頼先で多いのが、特別養護老人ホームや老人保健施設等の高齢者施設です。病院に搬送すれば助かる人がいる一方で、かなり難しい人もいる。心肺停止状態だとしても最善を尽くすのが規則ですから、平均8分の搬送時間中、救急隊員は一生懸命心臓マッサージを施します。病院に到着してからの医師も同じです。しかし、ここで少し冷静になる必要があるのではないでしょうか。医学的に助かる見込みが無いのであれば、施設で静かな臨終を迎えていただくのもよいのではないかと。これにより、救急隊員や医師の負担を下げることができます。しかし、施設としては病院に搬送しなければ家族から訴訟を起こされるかもしれません。対策としては、入居の際にこうした状況の可能性を説明し、過剰な延命措置は施さない旨の了解を得ることがあります。

このテーマでは、救急隊員や救急担当の医師、施設の担当者、ケアマネージャーから様々な意見が出ます。そうした意見を聞き、「なるほど、そちらの立場だとそう思うのか」と同調しながらも「そうは言ってもこちらの立場では」と議論が進み、相互理解が育まれていくのです。市としては、議論を踏まえて「施設における救急車の呼び方のガイドライン」といった政策に反映させています。こうした会議を年間4~6回行っています。それぞれの会議は地味ですが、平成24年から積み上げた結果、医療・介護におけるネットワークが蜘蛛の巣のように広がり、それが在宅ケアを支えていると思っています。

地域包括ケアシステムの進捗

 最後はSDGsが重視する進捗について報告します。まずは在宅診療の医師数です。平成28年には、平成22年の倍近くまで増やすことができました。同時に、在宅医療に不可欠な訪問看護ステーションの数も平成23年の2.5倍に増えています。看護師は特にターミナルケアで重要であり、ステーション数に比例してその数を増やすことができました。自宅看取りの数も、当初の2倍以上に増えており、その中でも市内の診療所による看取りが4倍になっています。

SDGsは実に広範囲に及んでいます。その中で日本の自治体に急務なのが高齢者対策です。全方位的な視野は大切ですが、現場を抱える我々としては身近な課題解決に注力しなければなりません。柏市は「地域包括ケアシステム」にテーラーメイドで臨み、医療・介護の連携といった土台づくりと進捗管理を行ってきました。地道な活動ですが、これらの積み上げがストックになり、近い将来大きな成果をもたらすことを確信しています。


講演3

「SDGsと日本郵政グループの不動産事業」

似内 志朗氏

■プロフィール

似内 志朗(にたない しろう)

日本郵政不動産株式会社プロジェクト推進部部長

一級建築士、認定ファシリティマネジャー

1984年郵政省入省。建築設計、戦略ファシリティマネジメント導入、新規事業開発・企業提携等の担当を経て現職。公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会ユニバーサルデザイン研究部会長。共著に『第4の経営基盤』『CREマネジメントハンドブックJAPAN2016』等。


SDGsへの取組み

似内氏
似内氏

 日本郵政グループは民営化の経緯から、事業と公益性との融合を常に考えてきました。SDGsは整理に有益であるばかりか、事業を発展させるフレームワークになると捉えています。まずは日本郵政グループのSDGsへの取組みから紹介します。グループ企業として金融から郵便、不動産といった幅広い事業を展開しており、それぞれがSDGsの各目標を当てはめながら取組みを公表しています。

本日は「目標11」の「都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」の中で、特に「地方公共団体と連携した取り組み」、「環境に配慮した不動産事業」、「不動産開発事業における公共貢献施設」についてお話します。


開発コンセプト

 日本郵政グループの開発コンセプトは大きく「ユーザー視点」と「公益性」です。郵政はかつて鉄道で郵便物を運んでいたため、郵便局も駅前にありました。東京駅から下り方面の電車に乗ると先頭方面に郵便局が見えますが、郵便局が先頭車両に近い位置にあったためです。1984年に東京中央郵便局がトラック輸送にシフトして以来、各地の郵便局も高速道路のインターチェンジ付近に設けられるようになります。まだ多くの郵便局が駅前にありますが、機能移転も進むにつれ、トラックの搬出入が頻繁な郵便物の物流部門は郊外へ移転しつつあります。結果、駅前の一等地にある建物の容積率を増やして都市開発を行うことになり、JPタワー等の建設につながったのです。

当グループの建築歴史は1885年に遡ります。日本の近代郵便制度の創設者である前島密の時代からその歴史を積み重ねているのです。その中で、逓信省や郵政省の時代を通じて新しい建築スタイルにチャレンジしてきた経緯があります。2007年民営化時からは不動産開発に進出し、現在に至っています。基本的に郵便局は地域社会に根付いており、コミュニティと密接な関係を持っています。不動産事業としても地域社会を大事にすることが、SDGsやCSR以前にDNAとして引き継がれており、それがトータル生活サポートグループ企業としてのスタンスになっています。

一般的に事業性と公益性は相反すると思われがちです。CSRの考えには、事業での収益の一部を社会に還元するという意味合いがあります。一方、不動産事業では長い目で見れば事業性と公益性が相反しないことが多いのです。不動産事業で長期間収益を上げ続けるためには、立地する地域が繁栄し続けることが必要です。自社ビルだけでなく、街やエリアが繁栄していくことで、自らも持続的な繁栄が可能となります。したがって長期に見ると、公益的なエリアの貢献が事業と一致するわけです。環境に関しても、例えば省エネルギーによる維持費が少ないビルは、長い目で見れば事業に貢献します。また、日本のように災害が多い国では、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)により被害を最小限に抑えつつ、最重要ビジネスを迅速に再開させることで、損害発生を最小限に留めることでビルの評価が高まります。さらに高齢化や国際化への対応のために、多様な人材に対応できるビルが求められており、これも事業性とは切り離せません。

CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)の考え方に近いのかもしれませんが、長期的に見ると公共性と事業性とがかなり一致してくると思います。これを模式的に描いたのが上の図です。初期投資が多少増えたとしても、長期的な事業性でキャッシュフロー見込まれる方を選択することが、事業の観点からも合理性があるのです。

環境に配慮した不動産事業

 次に当グループの具体的な事業を紹介します。まずは環境に配慮した不動産事業で、「東京丸の内のJPタワー」では自然換気システムや緑化、屋上アトリウムの太陽光発電等、様々な取組みを行っています。結果、普通のテナントビルのCO2の排出量が107kg-CO2であるのに対しJPタワーのそれは59.9kg-CO2となり、全体としてエネルギー消費は少なくとも35%削減できました。2012年には東京都の低炭素ビルトップ30に選定され、CASBEE(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency:建築環境総合性能評価システム)では最高ランクである「Sランク(素晴らしい)」の認証を受けています。

下は、3年ほど前に名古屋駅前に竣工した「JPタワー名古屋」です。省エネやCO2削減、緑化などでCASBEE名古屋「Sランク」を取得しています。こうした環境への取組みは建物のスタンダードとなっていますが、突然出てきたのではなく、長い歴史があります。例えば、下は1996年に私自身も設計に関わった島根県の津和野郵便局で、OMソーラーを導入し太陽熱エネルギーを活用しています。

1999年にはZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)を目指して北海道網走市の呼人郵便局や広島県福山市の鞆郵便局を建設しました。ゼロとは行きませんが、呼人郵便局では9割程度達成しています。

次は公共貢献施設についてです。例えば「JPタワー丸の内」では、歴史的建築物の保存や屋上庭園のほか、文化施設「インターメディアテク」を運営しています。災害時の避難施設も設置し、当然バリアフリー新法の円滑化誘導基準に準拠しています。高さ31m以下の部分に、近代建築で有名な建築家、吉田鉄郎氏が設計したファサードを保存し、その上部に高層ビルを建てています。逓信建築や郵政建築の歴史の流れの中で、東京中央郵便局はヘリテージの一つなのです。

次は街の活性化についてです。「JPタワーKITTE」は開業以来、クリスマスシーズンに巨大なツリーをアトリウムに展示しており、年間約2,000万人の来館者があります。屋上は夜間の鉄道や夜景が楽しめる人気スポットになっています。これらは都市再生特別地区という制度に基づく容積率の緩和によりもたらされた空間ですが、メニューの選択にあたっては、単に公共貢献だけでなく、いかに地域繁栄の持続性に資するものにしていくのかを重視しています。

「JPタワー名古屋」についても、事業者が都市のインフラを担っており、共同駐車場やバスターミナル、災害時の避難場所を設置しています。貫通通路で利便性を上げることも活性化の一つです。歩行者の回遊性を上げることで、周辺の持続可能な活性化に貢献しています。

「札幌三井JPビルディング」は道庁の赤レンガビルの前に広がる北三条広場に面しています。市は歴史的背景から赤レンガによる路面を復活させており、当ビルでもオープンカフェを設けて環境づくりや観光地化に配慮しています。

「KITTE博多」はJR九州との共同事業で、ここでも長期的な街の活性化に貢献しています。図は、計画地を挟んで駅前広場と隣接するエリアを直線でつなぐ貫通通路を示しています。これにより、計画地を含めたエリア全体の価値を上げることを期待しています。

小さいプロジェクトには、統合・縮小されている社宅跡地の利用があります。現在、保育所1件が完成し、4件が計画中です。また、高齢者施設への建物賃貸も行っています。保育所と高齢者施設を一緒に設置する企画もあり、子どもたちと高齢者の交流が期待されます。運営については専門企業が行っており、例えば板橋の物件では株式会社ベネッセスタイルケアにお借りいただいています。

最後に私見ですが、SDGsが目指す枠組みを提示したいと思います。冒頭、不動産事業では長期的に事業性と公益性が一致する方向にあるとお伝えしました。一般的にはどうでしょうか。「民」は公益性をさほど追及せず、「公」にとって事業性は二の次でした。むしろ、「民」と「公」はトレードオフの関係性が多かったと思います。しかし、持続性を考えた場合、何よりも事業性が不可欠です。「民」も「公」も公益性を保ちつつ、稼げる施設やインフラを作らなければなりません。

そうした「民」の好例が丸の内のエリアマネジメントです。そこでは、三菱地所と「一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会」が快適で公民が協調する街づくりを総合的・一体的に進めています。一方の「公」では、岩手県紫波町(しわちょう)のオガールプロジェクトがあります。駅前の町有地を中心に商業施設やホテル、体育館、図書館等が入居する施設を相次いでオープンさせ、補助金に頼らない公民連携の姿として注目されています。また、豊島区の南池袋公園では、行政と地域とが協働しながら公園にカフェを設置する等、賑わいを創出しています。ここでは、カフェの収益の一部を維持費に使っています。

理想論かもしれませんが、SDGsの達成に向け、公民問わず、公共性と事業性が同時に高いレベルで達成されることが望ましいのではと考えます。


まとめ

中村 桂子氏

 本日は、SDGsの達成に向けた健康都市の取組みについて、新しい視点でお話をいただきました。まず、蟹江教授にはSDGs達成の鍵について、以下の4つを挙げていただきました。

  1. 共通言語
  2. バックキャストの発想
  3. 相互関連性で芋づる式に行うこと
  4. 自立・分散・協調、自分事で進めること
中村氏
中村氏

最初の「共通言語」については、SDGsの17の目標を象徴するカラフルなアイコンが頭に浮かびます。健康都市との共通点については、柏市の秋山市長からは高齢社会における行政の現場対応について、日本郵政不動産株式会社の似内プロジェクト推進部長からは不動産事業を中心とした事業性と公益性についてお話いただきました。健康都市を提唱したWHOは「上海宣言」でこれをSDGsの中核に位置付けています。今後健康都市はSDGsの達成とともに成長することになるため、健康都市こそがSDGsの共通言語になると思います。

2つ目の「バックキャストの発想」を具現化してわかりやすくお話いただいたのが秋山市長です。健康都市では、地域での分野横断型組織や行政と住民と民間のパートナーシップが進んでいます。柏市はこの仕組みをうまく動かし、2025年の地域の姿をイメージしながらバックキャストして準備を行っています。とはいえ、要介護3以上の高齢者が1.7倍になる事態は、非常に厳しいものです。そこは、革新的なアイデアと技術でカバーされることを期待しています。

3つ目の「相互関連性」について、17の目標の関係性を概念図で表現するのは簡単ですが、地域で実践するのは大変です。ここでも柏市における医療・介護・福祉の専門家による職種連携が参考になると思います。柏市では、市長のリーダーシップのもと、地域包括ケア関連のさまざまな事業が相互関連しながら日常的に動いています。互いの性格を知りながら人が繋がることで、「相互関連性」がより実質的なものになっています。

最後の「自立・分散・協調」はインターネットの根幹を示す考え方です。ネット社会は全体を制御する機能が存在しません。個々の要素が主体的に別々の場所で動きながらも全体として協調しています。SDGsや健康都市も同じです。とにかく「自分事」として進めてみて、わからない事については専門家に相談する。「自分事」として極めることが重要であり、主体性と能力を備えた個々が協調し繋がりを広げることで実質的な活動が起こるのだと思います。

SDGsは2030年に向けたテーマですが、現在は誰もが走りながら考えている状況です。まずは優れたモデルを発表することが大切です。健康都市ではすでに国際的な交流や優秀事例の共有が進んでいます。SDGsでも世界各地での取組みが進んでおり、新たな可能性や工夫を分かち合うことになるでしょう。グローバルな技術交流が加速化しますが、まずは日本で積み上げてきた手法や成果を「見える化」して指標で示すことがSDGsや健康都市に携わる私たちの役割ではないでしょうか。わかりやすく映像にしたりデジタルコンテンツで表現する方法もあるでしょう。SDGsの目標達成と健康都市の発展のために、今後もご協力いただきますよう、お願いします。


健康都市活動支援機構の新規事業

最後に、当機構の新たな取組みについてご紹介します。

 自治体におけるSDGs(持続可能な開発目標)で中心となるのが、「目標11:住み続けられるまちづくり」です。都市は環境やエネルギー、情報、交通、上下水、社会、経済といった多様なシステムで構成されており、政策や連携における行政の役割が不可欠なためです。一方で、事業性や技術革新においては民間のダイナミズムが欠かせません。「官」と「民」のパートナーシップが求められるのであり、健康都市活動支援機構の活動主旨はこの一点にあります。

WHOによりヘルスプロモーションがSDGsの中核に位置付けられた今、当機構は健康と医療を中心とするまちづくりに貢献すべく、セミナー及びコンサルティング事業を開始することとしました。

セミナーでは、事例研究やグループ議論を交えながら、SDGsの概要や持続可能な地域共創にむけた官民連携の重要性を理解し、官民協業モデルのあり方や成功要因、推進のポイントなどについて実践的に学びます。

また、コンサルティングでは、それぞれの自治体が固有の条件を踏まえて推進するSDGsに対して各分野の専門家が検証を行い、最適解を提示します。

少子高齢化や環境問題をはじめとする様々な課題を踏まえた自治体SDGsの解決に向け、健康都市活動支援機構は民間とのパートナーシップで取組みます。

認定NPO法人健康都市活動支援機構

事務局 曽川

〒101-0032 東京都千代田区岩本町2-13-6 ミツボシ第三ビル8階

Tel.03-5820-3481 Fax.03-5820-3113

E-mail: sogawa@ngo-hcso.org URL: http://www.ngo-hcso.org



公式サイト


事業サイト


健康都市連合



ヘルシーパートナーズ協賛企業