第13回健康都市連合日本支部大会が北海道網走市で7月4日(火)と5日(水)の二日間にわたり開催されました。大会には全国から27市の市長や副市長、担当者をはじめ、市民や団体、企業を含むおよそ150名が参加。基調講演をはじめ自治体や団体、企業の発表、パネル展示、行政視察等を通して優れた事例を学ぶとともに、交流を深めました。
大会の概要
日時: 7月4日(火)~7月5日(水)
会場: オホーツク・文化交流センター(エコーセンター2000)
主催: 健康都市連合日本支部
網走市
協力: 網走市食生活改善協議会
網走市健康推進員協議会
認定NPO法人健康都市活動支援機構
特別協賛:株式会社はくばく
協賛: アズビル株式会社
エア・ウォーター防災株式会社
株式会社ケアコム
株式会社佐藤総合計画
三建設備工業株式会社
三和シヤッター工業株式会社
大成建設株式会社
田島ルーフィング株式会社
山崎製パン株式会社
製造協賛:株式会社とかち帯広ヤマザキ
網走市水谷市長挨拶
最初に開催地の代表であり新たに健康都市連合支部長に就任した網走市水谷市長が挨拶に立ちました。
「市制70周年となる年に網走市で本大会を開催できることを大変意義深く感じております。網走国定公園の中心に位置する当市は緑豊かな市街地を形成しており、屈斜路湖、摩周湖、釧路湿原などの観光地が日帰り圏内になっています。網走を拠点に北海道道東を楽しんでいただければ幸いです。
当市は平成21年に健康スポーツ都市宣言を行い、平成24年度には健康都市連合及び日本支部に加盟し、健康都市を推進しています。スポーツ合宿の誘致にも力を入れており、毎年1700人を超えるアスリートに合宿地として利用いただいています。その取り組みの成果として、2010年の東京五輪・パラリンピックに向けてのホストタウンに登録されるとともに、バイアスロンのパラリンピックナショナルセンター拠点施設にも選ばれました。
さらに今年4月には日本体育大学附属高等支援学校が、国内初のスポーツ教育を主軸とした特別支援学校として開校し、共生社会の実現と地域の活性化に貢献いただいています。
大会では、基調講演や網走市の健康推進の各種取り組みをはじめ、各地の献身的な健康推進の発表があり、アトリウムロビーでは企業、市民団体、加盟都市のパネル展などを設けています。
本大会には全国各地から27の自治体の首長や関係者、4つの協力会員、そして多くの市民団体や協賛企業の皆さんに参加をいただいています。
参加者の皆さんの交流が深まると同時に、健康都市の実現に向け地域特性に応じた取り組みを発展させるための機会となることを祈念いたします。」
健康都市活動支援機構千葉理事長挨拶
来賓挨拶に続き、千葉理事長が登壇しました。
「私ども健康都市活動支援機構は昨年、認定NPO法人の資格を取得することができました。全国を見ますとNPO法人数約50,000法人に対し、認定NPO法人は約1000法人しかありません。全体の2%でしかない認定NPO法人の資格できましたことは、2010年の設立以来6年間に及ぶ活動を支えていいただいた関係者の皆様のご尽力のおかげです。厚く御礼申し上げます。
さて、私どもは日本支部加盟自治体とともに、車の両輪として国内外で健康都市活動推進いたしております。国内の主な活動が「ヘルシーパートナーズ事業」です。地域の健康の支え手である健康ボランティア団体を行政を通じて支援するもので、昨年は北名古屋市で、本年度はここ網走市と千葉の市川市、鎌ヶ谷市で展開しております。支援内容は供給品や講師の派遣等で、地域の要望によりご協力させていただいております。
一方、国外の主な活動には国際交流プログラムがあります。アセアン諸国の中でWHO西太平洋地域の都市のネットワークである健康都市連合に加盟する自治体から研修生を招聘するもので、国際交流基金の助成金を一部活用しております。内容は、シンポジウムと日本支部加盟自治体を視察で、市長や職員、市民団体、企業との交流が貴重な体験になっています。前回は「食と栄養」のテーマで西東京市、尾張旭市、柏市を訪問させていただきました。本年度は「ヘルシースクール」のテーマで大府市、尾張旭市、市川市にご協力いただくことになっております。
こうした事業につきましては、機構のパネル展示をご覧いただければ、イメージをご理解いただけると思います。来年度の「ヘルシーパートナーズ事業」につきまして、興味のある方は事務局までお問合せいただければ幸いです。
最後になりましたが、この大会に向けてご準備いただいた網走市の皆様に感謝申し上げます。2日間を通じて活発な発表と交流を図られ、実りある大きな成果を得ていただきますことを、祈念してご挨拶とさせていただきます。」
基調講演
基調講演には、学校法人日本体育大学今村常務理事をお迎えしました。タイトルは「健康と心のバリアフリー」です。
同法人は126年の歴史をもつ日本最古の体育大学で、多くの教育者を輩出しています。時代の趨勢はダイバーシティからインクルージョンへと変化が求められているとし、大学法人としては初めてとなる特別支援高等学校として、日本体育大学付属高等支援学校を今年4月に網走市に開設しました。障がいのある子どもたちの能力や可能性を最大限引き出し自立した社会の一員とすることが、成熟した社会形成や健康都市づくりに寄与するからです。本講演では、インクルーシブ教育の理念に基づく同校の特長ついてお話しいただきました。
今村常務理事によると、同校は3学年制で1学年の定員は40人。知的障がいのある男子生徒が対象です。「スポーツ教育」を主軸に、美術や音楽などの「情操教育」、農業や園芸、流通サービスなどの「労作教育」の3つを柱とした教育を行っています。全国から入学した仲間たちと寄宿舎で生活をしながら、一人ひとりの個性に合わせた教育を行っています。本校で障がい者スポーツやパラアスリートを目指し、運動の基礎を学んだ生徒には、日本体育大学に進学する道が開けています。
体育大学が母体ですが、トップアスリートの育成が1番の目標ではありません。スポーツ教育では、健康で頑強な身体形成とともに、ルールやマナーを遵守する心や人との関わり方を学びます。さらに労作教育や情操教育による人間形成を目指しています。全員が寄宿舎生活を送ることで、生活習慣や自立能力を育むことも重視しています。
今年度、定員40人の枠に19人が入学しました。半数が道内、半数が道外からです。「子どもたちが3年後に社会に出るときに、しっかりした社会人として生活できるようになっていること」がすべての親に共通する願いです。NHKの番組で報道された際には番組終了と同時に電話が殺到。「夢のような学校だ。こういう学校が欲しかった」と、編入や見学の問い合わせが相次ぎました。
校舎は、旧道立技術専門学院を改装したものです。右が全寮制の寄宿舎、中央が既存の建物、左がグランドです。総事業費は約31億円。さらに、右上部分に150m全天候型ドームの陸上競技場で職業訓練や農作業訓練ができる施設を11月までに完成させる予定です。
寄宿舎では、共同生活を通じてコミュニケーション能力を養い、社会参加するための基礎を身に付けます。
一般的な調理器具とともに、本格的なパン焼き窯やピザ窯を備えています。
就労学習では、さまざまな体験学習を通して得意なことを伸ばし、不得意なことを克服することで、卒業後に社会で自立できるようになることを目指しています。
2つある体育館には、柔道場やトレーニング機器を完備しています。屋外グラウンドに加え、11月には国内で2例目となるオールシーズン対応の屋内150m直線走路が完成予定です。
特別協賛企業発表
特別協賛企業の発表では、株式会社はくばくの長澤代表取締役社長が「健康な未来をつくる!大麦のパワー」と題して、最新のエビデンスと共に大麦の機能性を活かした健康な地域づくりの可能性について報告しました。
大麦の健康機能
大麦は紀元前3000年からの長い歴史を持つ食物です。近年では、豊富に含まれる水溶性食物繊維(βーグルカン)による機能性がアメリカ・EUをはじめとした世界各国で科学的根拠のあるものと認められ、健康機能表示が謳われるようになっています。
一方、日本では1960年には国民一人当たり年間約8.1キログラムの大麦を食べていましたが、この50年で消費量は40分の1近くまで落ち込んでいました。その流れが健康ブームにより、ここ数年で大きく変化しています。テレビ番組で紹介されたこともあり、水溶性食物繊維含有量の多い「もち麦」が高く評価されるようになったのです。その裾野は家庭をはじめ、学校給食から病院の食事、レストランなどへ広がりつつあります。
大麦には、便通改善などに役立つとされる不溶性食物繊維と、生活習慣病予防に役立つとされる水溶性食物繊維がバランスよく豊富に含まれています。特に、大麦由来の水溶性食物繊維「β-グルカン」の機能性への注目は世界的に高まっており、2006年、FDA(アメリカ食品医薬品局)のヘルスクレーム(健康強調表示)認可を皮切りに、各国において、「冠状動脈心疾患のリスク低減」や「コレステロール低下による冠状動脈心疾患のリスク低減」、「食後血糖値上昇の抑制」、「排便促進効果」、「正常な腸機能の維持」といった具体的な効果効能が、国家レベルで許可されています。
特に強調したいのが腸内環境の改善です。ヨーグルトが腸内環境を整えることが知られていますが、乳酸菌の餌になるのが水溶性食物繊維なのです。麦ごはんの後でヨーグルトを食べることで、内臓脂肪の低減や食後血糖値の上昇抑制とともに、血圧の低下や腸内環境の正常化が期待できるというわけです。
大麦サポーターズ
今、「大麦サポーターズ」と呼ばれる人々が活動中です。メンバーは料理研究家や研究者、医者などで、大麦の機能性についてのデータ集積・発信や消費者向けのセミナー、大麦を使用したレシピの提案、国内消費の拡大と生産者への支援活動を行っています。健康の維持・増進と国民医療費の削減のため、大麦の健全な市場を創造し、「大麦を食べる」ことをムーブメントとすることが目的です。
そうした一方、原料不足による商品の欠品が続いています。食用大麦は、北関東や北陸、中国、九州が産地の中心で、カナダ、米国、オーストラリアなどからの輸入品も出回り始めていますが、需要に応えきれていないのが現状です。そこでオホーツク産です。北海道はビール大麦が中心で食用大麦の栽培はまだこれからの段階です。ぜひ、もち麦をオホーツクの農家で栽培していただき、網走を国産大麦の一大産地にしていただきたい。そのためにも、大麦を食べて健康の維持と向上に役立てていただきたい。生活改善の一つの方法として大麦を栽培していただき、流通させることで、共に健康都市づくりを目指したいと願っています。
みんなの健康 元気なあばしりの実現に向けて
行政の取り組みとして「地域に根ざす網走流健康づくり」のタイトルで発表いただいたのは、桐蔭横浜大学スポーツ科学研究科桜井教授です。桜井教授は10年前の市制60周年の時に網走市に赴任し、市役所や保健センターで「網走市健康づくりプランⅢ」の策定に伴う健康づくりに携わった経歴をもちます。
桜井教授には、一次予防の推進を重点とする4つの具体的な健康づくりの取り組みについて報告いただきました。
1.VPDゼロ運動
ワクチンで防ぐことのできる病気をワクチンで防止し、重症化を防ぐ運動です。平成25年度からは1歳~中学3年生までの子どものインフルエンザワクチンの無料化を行っています。
2.あばしりベジラブル運動
「ベジタブル」と「ラブ」の意味を込めた造語です。生活習慣病予防の観点から、野菜への関心を高めることが目的で、1日350g以上の野菜摂取を促すよう情報を発信しています。学校給食では、JAオホーツク網走の協力により、新鮮な網走産野菜を市内小学校の日給食に用いています。また、野菜をデザインしたコースターをベジラブル運動推進協力店に配布し、野菜摂取の意識づけを促しています。
3.健康づくり指導者ライセンス制度「健康コンシェルジュ匠」
シニア世代を対象に健康づくりの推進役として、運動指導ができる指導者を養成しています。発案のきっかけは、網走市には元気な高齢者が多いことです。桜井教授は、農業や漁業従事者が多いことと、体を動かす習慣がついているためと分析。こうした元気な高齢者に健康づくりの指導者として活躍してもらうことを事業化しました。資格取得には1週間講習とペーパーテスト、実技が必要です。平成28年度末現在で、60~80歳45人が認定されています。
4.あばしり健康カニチョッ筋体操
網走市特産の「あぶらガニ」をモチーフとするご当地体操です。体力に合わせて選べるようにいくつかのバージョンがあります。オリジナル発表から10周年を迎えた2017年、さらに周知を広げるために、音頭バージョン、ブラスバンドバージョン、ベビー体操を追加しました。桜井教授が重視したのが科学的根拠です。そのために東京農業大学や網走中央病院と連携し、MRIや超音波検査により、運動に伴う消費カロリーや脂肪燃焼量を市民モニターを対象に調査しました。3か月後の体力測定では、多くのモニターに脚筋力やバランス能力の向上が見受けられました。特に、普段使うことが少ない内ももの筋肉が増えたことが成果です。
WHOの健康都市
WHOの健康都市の新動向について、健康都市連合の中村事務局長(東京医科歯科大学大学院教授、WHO健康都市・都市政策研究協力センター所長)に「持続可能な開発につなげる健康都市の地域活動」と題してお話しをいただきました。
2015年9月に持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)が国連で採択されました。SDGsは世界の国と地域における2030年までの共通の目標です。WHOの健康都市は今後、SDGsと共に活動することになります。SDGsを進めるのは国連や政府だけではありません。地方自治体や地域団体、消費者まですべての人々が、子どもも大人もそれぞれの立場で取組むべきものです。スローガンは「誰一人取り残さない」こと。一人ひとりの健康と家族の健康が出発点としながら、世界全体の事を考えて誰一人として取り残さないことを重視しています。
SDGsには17の目標があります。その中で3番目が「全ての人々に健康と福祉を」を掲げており、特に健康都市に関係しています。また、11番目の目標に「住み続けられる街づくりを」があり、これも健康都市の大切な目標です。具体的には安全な住まい、安全な交通、市民の支え合い、文化遺産や自然遺産の保護や保全、災害への備え、大気汚染の低減、そして廃棄物の適切な管理、緑や公共スペースの確保が挙げられています。
その他の目標も、健康都市の活動とはいろいろ関係しています。目標3は生活習慣病を減らすことが具体的な活動ですが、メタボ検診を受けることや地域での食生活改善活動が健康都市とつながっています。また、生活習慣病の危険要因について多くの人々に知ってもらうことが大事なので、目標3には例えば健康祭りでのボランティア活動がつながります。
目標2は食に関係する目標で、例えばすべての子どもたちが一年中安心・安全、栄養のある食糧を十分に食べられることを目指します。ここでは、国内でも実践されている子ども食堂のような活動が一例です。持続可能な食糧生産もテーマになっていますが、ここでは地産地消の取組みに期待が寄せられています。
目標4番は教育に関係しており、食育が含まれます。目標8は働き甲斐や経済成長を目指しており、持続可能な観光推進を含んでいます。ここでは、食生活改善推進員による伝統食のPRがつながります。働き甲斐のある人間らしい仕事では、例えば職場においてヘルシーランチを普及させる活動があります。
目標11は街づくりで、世界各地の都市部と農村部がつながることがテーマです。ここには、国内外における産地と消費地の交流が含まれます。
12番は作る責任、使う責任。賢い消費者になる、食品ロスを防ぐ運動がある。自然と調和しエネルギーを無駄にしないライフスタイルもある。
目標14は海の豊かさ、15は陸の豊かさを守ることがテーマです。海洋や陸の生態系の保全では、環境保全の取組みをしている人やガイドの活動が含まれます。
健康都市活動を推進することで、2030年までに持続可能な開発目標の達成に取り組むことが、これからのWHOの健康都市の大きな方向となります。一人ひとりが取り組めることや組織で取り組めることが沢山あるので、今後各地で健康都市活動とSDGsの融合が展開することを期待しています。
加盟自治体の発表
加盟自治体からは、千葉県松戸市、愛知県長久手市、網走市の職員が健康都市活動について報告しました。
〇千葉県松戸市
「まつど健康マイレージ」について
健康診断や健康に関係するイベントや事業への参加、スポーツジムの利用などでマイル(ポイント)が貯まり、貯めたポイントで応募すると抽選で特典が当たる制度です。平成28年度は2,211人から3,331件の応募があり、最多マイルは386マイルでした。
「健康松戸21応援団」について
平成28年に市長を団長に発足しました。市民の健康づくりを応援する企業や団体で組織されています。平成29年5月現在で122団体が入団しており、多くの応援団員がまつど健康マイレージに協力しています。
〇長久手市
「YG座談会」について
「毎日コツコツ健康教室」(月に一度開催)で汗を流した後、皆でワイワイガヤガヤおしゃべりしながら知り合うことで健康づくりの輪を地域に広げています。
「保育園おたすけたい」について
退職世代による保育園でのボランティア活動です。草取り、落ち葉清掃、花壇の管理、散歩同行、行事手伝いといった保育補助に従事しています。
「地域スマイルポイント」について
市民活動をすることでポイントが貯まり、貯まったポイントを図書カードやクオカードと交換できるシステムです。
〇網走市
「あばしり健康マイレージ」について
特定健診やがん検診、健康講演会などに参加するとポイントがもらえ、規定のポイントに達するとあばしりベジラブル運動の一環として地元野菜がもらえる制度です。
「地域協働の介護予防」について
目的は、孤立化の防止、閉じこもり防止、生きがいづくり、健康づくり、ボランティアの育成に次の事業を行っています。
・高齢者ふれあいの家の運営
ボランティア主体で地域に高齢者が集える場所を設け、楽しく過ごせるプログラムを実施しています。平成28年度は13カ所で実施し、利用者492人、延べ利用者14138人、ボランティア数356人でした。
・いきいき教室
介護福祉士を派遣し、介護予防に資するメニューを提供するとともに、地域での交流を促進しています。平成28年度は3箇所で実施し、利用者24、延べ利用者933、ボランティア138人でした。
・らくらくトレーニング教室
地域コミュニティセンター運営委員会などを主体に、週1回柔道整復師、フィットネスインストラクター、ボランティアの連携で高齢者の筋力トレーニングを実施しています。
平成28年度は6箇所で実施し、利用者395、延べ利用者9132、ボランティア70人でした。