運動器の障害による移動機能の低下で、寝たきりのリスクを高めてしまうロコモ。その予防に重要な役割を果たす「栄養」を改善して健康長寿実現へ――。日本栄養改善学会と味の素㈱が共催した実践的なシンポジウムと、同社の地方自治体との取り組みをレポートします。
みちのくの地の学術総会で、注目のシンポジウム
「栄養」の最前線で活躍する管理栄養士・栄養士はじめ、健康・医療分野の従事者が集う第63回日本栄養改善学会学術総会が、2016年9月7日~9日、青森市で開かれました。
今回のテーマは「食を通じて、つなぐ・つながる 人、知恵、技」。学術総会長の吉池信男先生(日本栄養改善学会東北支部会支部長、青森県立保健大学教授)は、「私たちのより良い『食と健康』を支える学問的基盤である栄養学とその実践について、みちのくの地でともに語り、考えていきたい」と挨拶。3日間にわたり、多数のシンポジウム、ワークショップ、ランチョンセミナー、講演、展示などが開催されました。
中でも注目を集めたのが、2日目の共催シンポジウム「ロコモティブシンドローム〜骨と筋肉を強く保つための栄養の課題~」でした。
※ロコモティブシンドローム:運動器症候群。骨や筋肉などで構成される運動器の衰え・障害によって「立つ」「歩く」といった機能が低下を来した状態。進行すると介護が必要になるリスクが高まる(以下、ロコモ)。
ロコモ予防に向けた「栄養」の課題が明らかに
健康寿命の延伸は、超高齢社会の最重要課題です。大きな鍵を握るのが、ロコモの予防と改善。その課題解決に向けたシンポジウム「ロコモティブシンドローム〜骨と筋肉を強く保つための栄養の課題~」は、日本整形外科学会と味の素㈱が共催し、6名のシンポジストが医学と栄養学の両面から研究発表・提言を行いました。
ロコモの予防・啓発活動を行う「ロコモ チャレンジ!推進協議会」委員長の大江隆史先生は、「全国民のロコモ認知度はまだ47.3%です。これはロコモという言葉を聞いたことがあるというだけで、ロコモの意味を知っている人はさらに少ないのが現状です。特に若い人たちの認知度が低く、若年層に広く認知させることは重要な課題です」と、改めてその予防・啓発の重要性を訴えました。
ロコモを予防するには、加齢による「骨粗しょう症」や「サルコペニア(筋肉萎縮症)」の発症を防ぐことが求められます。その骨粗しょう症予防について、石橋英明先生は「全世代にわたって適切な栄養素、特にたんぱく質やカルシウムを十分に摂取すること、運動習慣をつけること、日光にあたることが必要」と指摘しました。
また、サルコペニア予防については、新開省二先生が、「十分なたんぱく質の摂取」だけでなく、「多様な食品を摂取することで栄養素の相乗効果が期待される」ことを強調しました。
このシンポジウムで、ロコモを予防する栄養改善のポイントとして、特に強調されたのは以下の2点です。
- バランスのよい食事を心がけること
- 特に「たんぱく質(アミノ酸)」、「カルシウム」、「ビタミンD」、「ビタミンK」を摂取し骨密度と筋肉量を維持すること
会場を埋めつくした栄養関連専門家の方々は、超高齢化社会における「栄養」の重要な役割を改めてしっかりと受けとめていました。
なお、会場では運動機能の低下への気づきを与えるロコモ度体験テストも実施。多くの来場者が参加していました。
だしのうま味でおいしく減塩 「目ざそう! 健康長寿社会」
また、ランチョンセミナーでは「だしのうま味でおいしく減塩 目指そう!健康長寿社会」をテーマに、青森県と東北女子大学、地元企業や味の素㈱等、産官学一体での取り組みを紹介しました。
今回の開催地となった青森県は、「短命県返上」に向けて、「だしのうま味」を活用した〝おいしい減塩〟を推進し、長寿をめざす活動(「だし活」)を進めており、味の素㈱もその活動に協力しています。このランチョンセミナーでは、〝おいしい減塩〟の実例として、「青森のうま味弁当」が提供され、好評を博しました。
減塩弁当「青森のうま味弁当」。青森の食材と「だし活」から生まれた地元の調味料、味の素㈱の減塩タイプ製品の使用によって、食塩相当量における1日の目標摂取量(男性8g、女性7g)という厳しい数値目標に対し、1食あたりの食塩相当量を1.4gに抑えながら、バランスよくしっかりした味わいのお弁当が実現しました(協力:㈱栄研 在宅サービス事業部)
なお、最終日に行われた学会主催のシンポジウム「アミノ酸の可能性を探る~美味しさと健康・環境を支える~」(協賛:味の素㈱、後援:日本アミノ酸学会)においても、体の生理機能の調整や、おいしさに寄与するアミノ酸を食生活で上手に摂取することが、健康寿命延伸につながる重要なポイントであることが明らかにされました。
長年のシンポジウム共催・協賛を通じて浸透
味の素㈱が日本栄養改善学会学術総会でシンポジウムやランチョンセミナーに共催・協賛してきたのは、今回が初めてではありません。2005年からスタートし、第61回(横浜市)からはロコモ予防をメインテーマに据え、第62回(福岡市)、そして今回と、3年連続でロコモ予防の啓発活動を行ってきました。
ロコモ予防などの健康栄養をテーマとしたシンポジウム等の共催・協賛について、味の素㈱の小林久峰シニアマネージャー(研究開発企画部 総合戦略グループ)は次のように振り返ります。
「私どもは、日本整形外科学会、日本骨粗鬆症学会とともにロコモの予防・啓発活動を進めさせていただく中、栄養改善学会学術総会において、栄養こそがロコモの予防・改善に役立つことをお伝えしてまいりました。当初は、興味をお持ちいただけるか心配でしたが、この3年間会場は常にほぼ満席。皆さまのロコモ予防への関心の高さを伺い知ることができました。」
さらに、「3年間の活動で、ロコモ予防にはたんぱく質、アミノ酸の摂取が重要との認識が、栄養の専門家の方々に浸透したという確かな手ごたえを得ることができました。継続の成果です」。
「ロコモ予防の啓発ツールを用意し、健康長寿に貢献!」
しかし、一般の方々には、ロコモ予防にたんぱく質、アミノ酸が重要との理解が浸透しているとは言いがたいのが現状です。同氏は、今後の抱負について語ります。
「この3年間の成果を踏まえ、管理栄養士・栄養士や食生活改善推進員などの指導的な立場に立つ方々の実践活動へのサポートを、今まで以上にお手伝いさせていただきたい。そのために、栄養や運動を通じたロコモ予防、だしのうま味による減塩等、指導者の方々が生活者に対して指導・啓発を行う際に、ご活用いただけるような冊子等のツールを準備してまいります」。
同時に、自治体の担当者や、管理栄養士・栄養士の方々にこう訴えます。「自治体の健康増進・介護予防の事業の取り組みに対し弊社の栄養・食の知見や商品情報など、さまざまな形での情報提供やご提案ができればと考えております」。
味の素㈱が制作したロコモ予防啓発の印刷物の例
神奈川県「かながわ未病改善」活動をサポート
味の素㈱では、「官・民・学連携」の参加型プロジェクトのサポートをすでに各地で進めています。
神奈川県の「未病改善プログラム」への登録もその1つです。同県では、健康と病気の間で連続的に変化している状態を「未病」と呼んでおり、未病を改善してより健康な状態に近づける「かながわ未病改善宣言」のもと、「かながわ未病改善協力制度」を創設し、趣旨に賛同する企業・団体等と健康長寿延伸の取り組みを進めています。これを受け、味の素㈱も、健康寿命延伸のための栄養摂取と食の提案に関する講習会「おいしく食べて健康づくり講習会」を「未病改善プログラム」として登録しています(2016年7月)。そして同年8月20~21日の2日間、県が横須賀市等と連携して開催したイベント「未病を改善!!目指そう生涯現役 健康フェアin横須賀」(イオン横須賀店)に味の素㈱も参画。「ロコモ予防講座」を開催。ロコモ度テスト体験ブースも設け、ロコモの予防・啓発に取り組みました。
このように同社では、行政主催のイベントや勉強会などで、ロコモの予防法や減塩に効果的なレシピなど健康栄養に関する情報を提供し、応援を進めています。
「健康長寿という国民的課題の解決に向けて、自治体の皆さま、関連団体の皆さまに対し、さまざまな形でお手伝いさせていただきます。弊社が少しでもお役に立つことができましたら幸いです」。小林マネージャーはこう話を結びました。
味の素㈱は、健康栄養に関し、学術研究の成果に基づく啓発・提案に取り組んできました。こうした知見とノウハウをもつ民間企業と、地域の栄養最前線で活躍される方々、そして自治体の3者が、それぞれの力を活かして連携すれば、健康都市が重要課題とする健康長寿社会の実現に大きく近づくにちがいありません。